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犬の糖尿病

犬の糖尿病/長谷川動物病院
  ドンちゃん/長谷川動物病院

 

年の瀬も迫ったこの時期に、ワンちゃんの糖尿病が続きました。

 

ちなみにどちらも肥満犬でした。

 

 

食事をすると、栄養素の一部はとなって腸から吸収され、体が活動するためのエネルギー源となります。

 

インスリンは、膵臓から分泌されるホルモンの一種で、食事によって消化管から吸収された糖(ブドウ糖)を、血液中から体の細胞中に移動させ、血糖値を下げる働きをします。

 

血糖値を上昇させるホルモンは複数存在しますが、血糖値を下げる働きをするホルモンはインスリンだけです。

  

インスリンは、体の細胞のドアを開けるのようなものです。鍵がないと細胞のドアが開けられず、中に入れない大量の糖がドアの外、つまり血液中に居続ける状態が高血糖です。多いので尿中にまで出てきます。

 

糖尿病では、インスリンが絶対的に不足(1型)するか、または体のインスリン要求量が増えたためにインスリンが相対的に足りない(2型)ので、空腹時でも高血糖の状態が続き、尿中に糖が出てきます。

 

🌸ヒトでは、1型は自己免疫疾患による膵臓(ランゲルハンス島β細胞)破壊によってインスリンの産生障害が起こり、2型は遺伝的に元々インスリン産生能力の低めの人に生活習慣病などが加わって発症するというふうに分類されているようです。

 

そのほかに、遺伝子異常(家族型)や、高プロゲステロン性糖尿病、医原性(ステロイド性)糖尿病などに分類されます。

 

インスリン不足のために、いくら食べても体が糖をエネルギー源として利用できないので、不足したエネルギーを補うために、体内の脂肪や筋肉が分解されて使われて、どんどん痩せてきます。

 

なので、食欲旺盛なのにどんどん痩せていき、お水をがぶ飲みして尿が大量に出ます。(トイレまで我慢できずに失敗したりします)

 

来院時には、痩せている子も太っている子もいますが、太っている子は体重が減ってきているはずです。

 

 

持続性の高血糖は、白内障心疾患腎機能障害膵炎クッシング症候群、細菌や真菌感染症などの、糖尿病の併発疾患の発症や悪化の原因となります。

 

膵炎クッシング症候群感染症は、インスリン抵抗因子として治療の障害となりますので、すぐに治療しなければなりません。

 

なので初診時に、血液検査と尿検査は必須で、併発疾患の有無を確認します。

 

ちなみに、尿糖が陽性でも高血糖が見られない腎性糖尿の子も稀に存在しますので、注意が必要です。

 

 

高血糖の状態が長く続いて重症化すると、救急疾患である糖尿病性ケトアシドーシス高浸透圧高血糖症候群(犬では稀)となり、食欲不振、元気消失、脱水、衰弱、意識消失、嘔吐、下痢などを起こします。

 

糖尿病性ケトアシドーシス(や高浸透圧高血糖症候群)は、早期に適切な治療を行えば、数日の入院で離脱可能です。

 

けれど治療が行われなかったり、膵炎やクッシング症候群、細菌感染症(敗血症)などのために、DIC(播種性血管内凝固症候群)になってしまうと、回復は難しいです。

 

糖尿病は、併発疾患や合併症が怖いのです。

 

 

犬の糖尿病の治療は、お家で飼い主様からインスリンを注射していただきます。(病院であらかじめ練習を行なっていただきます)

 

ワンちゃんも猫ちゃんも、基本的にインスリン注射は1日2回、必ず食事とセットで行なっていただきます。 

 

犬の糖尿病は1型がほとんどですが、インスリンが絶対的に不足している1型だけでなく、相対的に不足している2型でも、同様にインスリンの投与が必要です。

 

ヒトの2型糖尿病は、以前、『インスリン非依存性』という言葉が使用されていたこともあり、犬猫の2型糖尿病や肥満の糖尿病の動物は、ヒトと同様に食事療法と減量だけで治ると、誤解されていらっしゃる飼い主様がいらっしゃいました。

 

けれどそれは全くの誤解で、特に1型がほとんどの犬の糖尿病では、治療のためにはインスリン注射が欠かせません。

 

インスリンを注射して、食事の前後の血糖値を、80~180㎎/dL程度の範囲に収めるようにコントロールするのです。

 

けれど実際には、1日を通して100~250㎎/dL程度の維持でも難しいです。

 

また未避妊の雌犬では、黄体ホルモンが強力にインスリンの働きを妨害しますので、避妊手術をお勧めしています。 

 

 

糖尿病治療の目標は、症状の改善と合併症白内障網膜症腎症など)の予防です。 

 

インスリンの注射は、食物中の糖を体が利用できるようにするために行うものですから、必ず、食事とセットで行います。

 

獣医師は、食事とセットでインスリンの投与量を決定しますので、決められた糖尿病用の療法食を定量ずつ与えていただくのが理想です。

 

糖尿病用の療法食は、食後の急激な血糖値の上昇を抑え、糖尿病の子に多い脂質代謝異常症(高脂血症)にも有効ですので、おすすめです。

 

反対に、色々な食べ物を時間に関係なく与えられてしまいますと、血糖値のコントロールがとても難しくなります!😣

 

 

投与されるインスリンが適正量(血糖値が正常)ならば、糖が体に取り込まれ脂肪が分解されることはありませんので、体重の減少はないはずです。

 

また、尿の中に糖が出なくなるので、糖尿のために多量の水分を失うこともなくなって尿量が減り、その分飲水量も減るはずです。

 

なので、治療がうまくいっているときには、体重が一定か増加し、飲水量や排尿量が正常になるはずです。 

 

 

私たちの病院では、救急疾患である糖尿病性ケトアシドーシス(や高浸透圧高血糖症候群)の治療用のインスリン(即効型、中間型)は常備していますが、飼い主様にお家で投与していただくペン型のインスリンは、普段は常備しておりません。(発注すれば翌日には配達されますので😅)

 

インスリン製剤は何種類かあり、治療の初め、その子に合うインスリンとその投与量を決定するためには、2~3日ほど入院していただく必要があります。

 

けれど長期のお休みに入ると、十分な検査や治療ができませんので、入院もできれば避けたいところです。

 

なので長期のお休みの前は、緊急性のない子の飼い主様には、最低量のインスリンを練習を兼ねてお家で投与していただきます。

 

ちなみに使用済みの注射器や注射針、残ったインシュリンの容器などは一般ゴミとしては廃棄できませんので、まとめて病院まで持ってきていただいて、医療用廃棄物として処分をします。(必ず飼い主様には説明をしています) 

 

時期に関わらず、分離不安や神経質な性格のために入院ができない子も同様です。

 

シャイな子たちは、病院に来るだけで血糖値(+血圧+心拍数+呼吸数)がぐーんと上がってしまいますからね。(ストレス性高血糖)

 

なかなか正確な検査ができませんし、ストレスのせいで、病院では血糖値のコントロールが難しいのです。

 

お家にいる時と病院では明らかに違います。

 

なので理想通りにはなかなかできなくて、そういう子たちは実際には投与量を予想してお家でインスリンを投与していただき、定期的に病院で血糖値(糖化アルブミンorフルクトサミンを測定して、投与量の調整を行っています。

 

可能な飼い主様には、ポータブル型の血糖測定器で血糖値をお家で測定していただいて、インスリンの投与量を調節することもあります。

 

採血や測定はちょっと…という飼い主様には、尿試験紙尿糖ケトン体をチェックしていただいて、同様にインスリンの投与量の調節を行っています。

 

 

ちなみに、ケトン体は脂肪の分解過程で発生する代謝産物ですので、インスリン投与中は尿中に出てきてはいけないものです。

 

もし尿の検査でケトン体が陽性になったなら、インスリンの投与量を増やさなければなりません。

 

犬は比較的軽度の高血糖(200㎎/dL 程度)でも、尿中に尿糖が出現します。(猫は300㎎/dL以上)

 

糖尿病性腎症を予防するためは、尿中に糖が出てくることは出来る限り避けたいところです。

 

逆に血糖値が60㎎/dL以下になると、低血糖症状(痙攣発作、ふらつき、虚脱、起立不能、興奮、行動異常、震戦など)が現れることがありますので、注意が必要です。

  

 

食欲がないとき、低血糖になるのが怖くてインスリンの注射をしないのは、そんなことが何日も続くのは、ケトアシドーシスを招きかねず、とても危険なことです。😰

 

反対に、高血糖だからといって、食事を与えずにインスリンを投与することも、低血糖症を招きかねずとても危険です。😨

 

食欲がないときには、⚠️食欲がないことを、必ず病院にご連絡ください⚠️

 

 

 

ちなみに犬用のインスリンは存在しませんので、人間用のインスリン製剤を使用しています。

 

それプラス食事療法で適正体重を目指し、適度な運動をお願いしています。

 

それが毎日続きますので、飼い主様の努力と献身には本当に頭が下がります。

 

 

 

以上、こんなに長い話をここまで読んでいただいて、本当にありがとうございました。

 

皆様、良いお年をお迎えくださいませ。

 

 

🥂 Have a Happy New Year ! ⛄️🐾 

 

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。 

 

 

🌸あわせてお読みください:ニャンコの糖尿病/マオくんのつぶやき(ぼやき?)

 

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