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はたらく細胞

 

映画『はたらく細胞』を見てきました。

 

細胞を擬人化し、細菌などの外敵や病気と戦わせるバトルエンターテインメントであり、同時にとっつきにくい細胞の名前や働きが擬人化によってわかりやすく理解できるように作られていました。

 

映画のストーリーも、ぼやけることなくばらけずに、とてもよくまとめられているなぁと感心しました。

 

ブラック版を同時進行で見せるアイデアも良かったですね。

 

何より、俳優さんたちが真剣に一生懸命演じていることが伝わってきて、とても良い映画だなと思いました。

 

きっとヒットしますね。😊

 

 

原作漫画のアニメも見たのですが、俳優さんたちのイメージも概ね原作に近くて良かったと思います。

 

佐藤健さんの白血球(好中球)は、Good Jobですね。イメージ通りです。

 

ヘルパーT細胞が少し私のイメージと違うかな?

 

キラーT細胞との友情エピソードが省かれて見せ場がなくなり、ヘルパーTのキャラが伝わらず、真面目一辺倒になっていたのが残念でした。

 

ちなみにヘルパーT細胞の私のイメージはなんとなくですが、岡田将生さんです。

 

 

でも、どうして好中球ではなく白血球にしたのでしょう? 白いユニフォームでわかりやすかったから? 袖のエンブレムも ”WBC" になっていましたね。

 

白血球は、好中球好酸球性好塩基球リンパ球単球/マクロファージからなります。

 

キラーT細胞、ヘルパーT細胞、NK細胞は、全てリンパ球で白血球でもあります。

 

 

外肛門括約筋のお話も面白かったですが、時間の制約と話の流れによって、液性免疫グループのBリンパ球や、樹状細胞が出てこなかったのが残念でした。

 

免疫の説明には欠かせませんからね。

 

細胞性免疫グループ(バトル系)のTリンパ球や、NK細胞マクロファージだけでは片手落ちだと思いました。

 

それとクッパー細胞とマクロファージの描かれ方の違いに違和感を覚えました。

 

骨髄由来ではないけれど同じマクロファージの仲間なのに、クッパー細胞さん、かわいそう。

 

それに引き換え、マクロファージさん、美化されすぎじゃありませんか?

 

ヒラヒラレースのドレスって。貪食細胞なのに。

 

まあ、松本若菜さんですから、仕方ないのかな? 単球バージョンの方も見たかったです。

 

 

1番の違和感は、化学療法(抗がん剤治療)と放射線療法の描かれ方でした。

 

映画で描かれたのは、白血病治療のための骨髄移植(造血幹細胞移植)前の、化学療法と放射線療法でした。

 

動物医療で通常行われる化学療法や放射線療法とは、抗がん剤の種類や投与量、放射線の照射線量や照射法、患者さんの受けるダメージなどがまるで違います。

 

けれど映画を見た人たちは、混同してきっと同じように思う人が多いのだろうなと思いました。杞憂なら良いですが。

 

芦田愛菜さんの素晴らしい苦痛演技のおかげでまた、抗がん剤や放射線療法は『苦しい、きつい、辛い』のネガティブなイメージを持たれてしまう、そんな危機感を覚えたのです。

 

白血病治療のための造血幹細胞移植では、移植後の拒絶反応(患者細胞が移植細胞を攻撃)や移植片対宿主病(移植細胞が患者細胞を攻撃)を防ぐため、移植前に通常よりも強力な治療(致死量の抗がん剤投与や放射線全身照射)が行われます。

 

それこそ、クリーンルーム内で死なないギリギリまで体を追い込むような感じです。

 

そのようにして、体内の白血病細胞を極力減らすと同時に、免疫細胞も減らすのです。

 

 

白血病治療は特殊ですが、一般的には、抗がん剤治療は全身療法で、放射線治療は局所療法です。

 

なので映画のお話に戻すと、むしろ抗がん剤がオーロラで、放射線がロケット弾のイメージに近いかなと思いました。

 

 

抗がん剤は、血液を介して全身に分布して悪性腫瘍(がん)だけでなく、抗がん剤に感受性が強い(細胞分裂が活発な)骨髄毛母細胞消化管粘膜上皮細胞生殖細胞などにも強く作用してしまいます。(副作用)

 

反面、分裂が停止している細胞には、がん細胞(固形がん)も含めて障害作用がほとんど認められません。

 

抗がん剤投与後の貧血(赤血球減少)白血球減少血小板減少は、骨髄での生産減少と同時に、それぞれの血球の寿命によります。

 

赤血球の寿命は約120日、血小板は約10日、白血球は数時間~数日ですので、白血球と血小板の減少は速やかに現れますが貧血は遅れて起こります。

 

なので映画に出てきた、骨髄芽球(子供)が発育して目の前の白血球(大人)と一緒に働くことはないのです。

 

 

放射線も悪性腫瘍だけでなく、照射部位とその周辺に存在する正常な細胞も障害してしまいます。

 

なので、照射範囲を可能な限り小さく限局すると同時に、生殖細胞や心臓、肺などの重要臓器を守る遮蔽板を装着するなどして予防に努めます。

 

それでも放射線が必ず通過する皮膚などのように、ダメージが避けられない部位も存在します。

 

また抗がん剤と同様に、細胞分裂が活発な骨髄毛母細胞消化管粘膜上皮細胞生殖細胞などにも強いダメージを与えてしまいます。(副作用)

 

放射線によってダメージを受けた正常な細胞の修復は、がん細胞の回復よりも早いので、その時間差を利用して複数回の照射が行われるのが一般的です。

 

ただし白血病治療のための放射線全身照射は、分割照射されていても全身療法と言っていいと思いますので、オーロラで良いのかもしれませんね。

 

ロケットだと、破壊し尽くされたガザやウクライナの街を思い浮かべてしまいます。

  

ちなみに、NK細胞は体の中からがん細胞を排除するのに重要な働きをしていて、末梢血中のNK細胞活性の高いヒトはがんの発生率が有意に低く、NK細胞活性の低いヒトはがんの発生率が有意に高くなることが明らかとなっています。

 

健康なヒトでも、1日に数百〜数千個もの、異常ながん細胞が発生すると言われていますからね。

 

 

細胞性免疫グループ(バトル系)の細胞出演が多かったせいか、「ぶっ◯す!」というセリフが多かったのも気になりました。

 

流行語になるかな? 子供達がマネして言いそうですね。🥺

 

 

 

以上、今年も1年、私の拙いお話にお付き合いくださいまして、ありがとうございました。😊

 

今年は元日早々、大きな地震に見舞われどうなることかと思いましたが、おかげさまで、その後大きな余震もなく無事に過ごすことができました。

 

皆様にとりまして、来年の2025年は良い年でありますように。

 

良いお年をお迎えください。