緑内障の治療は、内科療法と外科療法に分けられます。
内科療法は、目薬や飲み薬、注射薬などがあり、単剤または併用して治療が行われます。
今回は、内科治療の基本である点眼薬についてのお話です。
緑内障は、上昇した眼球内圧(眼圧)によって視神経がダメージを受け、視覚障害がひき起こされる病気です。
眼圧が上昇する原因は
①眼房水の産生量が増える
②眼房水の排出量が減る のどちらか、または両方です。
なので、治療薬もそのどちらか、または両方に作用して『眼圧を下げる』働きをします。
緑内障で失った視力は二度と回復しないため、進行予防(と、反対側の眼の発症予防)が治療の目標となります。
点眼薬は緑内障を治すお薬ではなく、病状を維持するするためのものです。
そのため、点眼を中止すると敵面に症状が悪化します。
なので、症状が改善されたからといって止めてしまわずに、根気強く続けてください。
また、早期に治療を開始することによって、長期に渡り視覚を維持できる可能性が高くなります。(現実にはなかなか難しいですが😔)
緑内障の治療に用いられる目薬には、主に以下の種類があります。
①プロスタグランジン関連薬(FP2受容体作動薬、EP2受容体作動薬)
②交感神経β受容体遮断薬(βブロッカー)
③炭酸脱水素酵素阻害薬
④副交感神経刺激薬
⑤交感神経α2受容体刺激薬
⑥Rhoキナーゼ阻害薬
①プロスタグランジン(PG)関連薬:キサラタン®、レスキュラ®など
最も代表的なお薬で、プロスタグランジンによる眼房水の排出促進作用を期待して使用されます。
効果発現が早いので、犬の急性期の原発緑内障の緊急治療にも用いられています。
ヒトでは1日1回の点眼ですが、犬は1日2回以上必要で、猫は眼圧降下作用が期待できないので使用されません。
副作用)縮瞳、ぶどう膜炎、水晶体脱臼、角膜融解(防腐剤による)など。
注意)強力な縮瞳作用があり、ぶどう膜炎を悪化させ、水晶体前方脱臼による虹彩後癒着や瞳孔ブロックを起こす恐れがあり、注意が必要です。
②βブロッカー:チモプトール®など
交感神経β受容体の働きを抑制することで、毛様体での眼房水の産生抑制を期待して使用されます。
犬猫とも1日2~3回点眼。主に犬の原発緑内障の反対側の発症予防に使用されます。
犬猫では毛様体のβ受容体数が少ないため眼圧降下作用が非常に弱く、使用には注意が必要です
副作用)縮瞳、角膜上皮修復遅延、気管支平滑筋収縮(咳、喘息)、徐脈、不整脈、低血圧など:実際には局所投与なのでケースバイケースだが問題にならない場合がほとんどです。
注意)循環器・呼吸器疾患のある犬猫では使用できない場合があります。
③炭酸脱水素酵素阻害薬:トルソプト®など
炭酸脱水素酵素の働きを阻害することによる、毛様体での眼房水の産生抑制を期待して使用されます。
犬猫とも1日2~4回点眼。作用は弱く、他の薬剤での効果が十分でない時の併用薬として、また原発緑内障の反対側の発症予防に使用されます。
内服薬(アセタゾラミド)もあり、このお薬はヒトの高山病予防薬としても使用されています。
副作用)眼刺激、眼瞼皮膚炎、代謝性アシドーシス、低K血症など。
注意)重度の腎障害のある動物での使用は禁忌です。
④副交感神経刺激薬:サンピロ®
副交感神経支配の筋肉に作用して縮瞳させることにより、眼房水の流出を促進する作用があります。
けれど、PG関連薬よりも効果が弱く副作用が強いため、現在、緑内障治療薬としてはほぼ使用されなくなりました。
副作用)縮瞳、眼瞼炎、結膜充血、眼痛、ぶどう膜炎、下痢、嘔吐、流涎など。
⑤交感神経α2受容体刺激薬:使用しておりません
交感神経α2受容体の働きを促進することで、眼房水の産生を抑制し、排出を促すことを期待して使用されます。
けれど、犬での眼圧効果作用は弱く、副作用が強いため推奨されません。
副作用)縮瞳、徐脈、血圧降下、体温低下、粘膜蒼白、元気消失、嘔吐など
注意)動物での使用は推奨されておりません
⑥Rhoキナーゼ阻害薬:使用しておりません
Rhoキナーゼという酵素を阻害することで、線維柱帯を弛緩させてシュレム菅への眼房水の排出を促進させる作用を期待して使用されます。
犬猫での有効性、安全性、副作用、禁忌についての詳細は検証されておらず、不明です。
◆合剤
異なる作用の複数の有効成分を組み合わせることで、1つのお薬での相乗効果を目指す目薬です。
メリット)
⚫︎目薬の本数と点眼回数を減らせる
⚫︎点眼に要する時間を減らせる
⚫︎薬代が安くなる
デメリット)
⚫︎アレルギーが出た時に、どちらの薬剤に対する反応なのかわからない
緑内障の点眼治療は、生涯にわたる継続的な点眼が必須です。
点眼薬を複数組み合わせて治療を行なっても、十分な効果が得られず、失明する場合もあります。
失明した場合、治療の目的は痛みの緩和と合併症(潰瘍性角膜炎)の予防です。
詳しくは、ご相談ください。
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。