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食欲不振・体重減少治療薬

 

カプロモレリン(エルーラ®)は、日本初の猫の慢性疾患に伴う『食欲不振』と『体重減少』を改善し、『体重増加』を目指すお薬です。

 

猫では、さまざまな慢性疾患に関連した体重減少が認められます。

 

猫は、体調不良が『食欲不振』として現れることが多く、摂食量が減ると体重減少、特に筋肉量の減少が著しく、動かなくなってしまいます。

 

 

健康的な体型は、犬も猫も人間も、『ちょい太』であると言われています。

 

体重の減少は、猫の体力、活動力(量)、免疫力、創傷治癒能力、生存期間(健康寿命)に、悪影響を与えることが知られています。

 

愛猫の痩せ細った姿は、確実に飼い主さまを悲しませ、不安にさせ、治療に対する意欲を削いでしまいかねません。

 

慢性疾患の治療は、ゴールの見えない現状維持。けれどその現状維持が大事なのです。

 

逆に、食べなかった子が食べる様になったり、減り続けていた体重が少しでも増えると、飼い主さまはとても喜ばれますし、それが『治療を頑張ろうというモチベーションにつながります。

 

なので、食欲を維持し体重を減らさないことは、慢性疾患の治療を続ける上でとても重要なのです。

 

 

実際、皆様、口を揃えて「難しいとおっしゃいますが、体重を減らすことは実は簡単です。食べさせなければいいのですから。

 

けれど、減り続ける体重を増やすことは、とてもとても難しいです。

 

食欲が普通にあったとしても、病気によって体内の代謝が変化して、食べても太れない体になっているので、食欲が減れば尚更です。

 

 

カプロモレリンには、そんな病気によって変化した体内の代謝を正常に戻す効果もあるのだそうです。

 

カプロモレリンは、猫の慢性疾患に伴う悪液質の予防&治療薬として期待される、経口グレリン様作用薬(選択的グレリン受容体作動薬)です。

 

悪液質とは、がんや心臓病、腎臓病などの慢性疾患によって引き起こされる栄養失調により衰弱した(痩せ細った)病態であり、絶対に避けたい状態です。

 

ガリガリになってからでは遅くて、栄養状態の改善が可能な早期の段階から、栄養療法運動療法薬物療法を組み合わせて、治療を行うことが望ましいです。

 

強制給餌が栄養療法であり、運動療法は、無理のない程度に行なっていただきます。 

 

このお薬の投与(薬物療法)だけでは、悪液質の改善は見込めませんし、同様に、慢性疾患の直接の治療薬でもありません。

 

 

グレリンは、いわゆる食欲増進ホルモンで、主に胃から分泌されて末梢性および視床下部などに発現する成長ホルモン分泌刺激受容体1a(GHSR1a)に作用し、食欲を刺激し摂食量の増加を促します

 

このお薬は、グレリン受容体に結合することによってグレリンと同様の作用を示し、慢性疾患の動物に対する食欲体重筋肉量の、増加作用が期待されます。

 

同時に、脳下垂体からの成長ホルモン(GH)分泌を促すことにより、肝臓でのインスリン様成長因子(IGF-1)産生を刺激して、筋肉量の増加が期待されます。

 

 

体重増加は良いことなのですが、脂肪組織だけが増えても嬉しくありません。

 

筋肉組織が増える(または減らさない)ことが重要なのです。

 

慢性腎臓病の猫を対象とした海外の報告では、投与によって、89.1%の猫で体重の増加または維持が認められたそうです。

 

ただし個体差があり、全ての猫に同様の効果が認められるわけではなく、食欲の改善には数日から数週間の投与が必要で、効果は徐々に現れるということです。

 

このお薬には、直接に慢性疾患を改善させる効果はありませんので、他の治療法との併用が必要です。

 

シリンジ投与しやすい粘稠性の液剤で、長期投与における安全性が確認されています。(1本は5㎏の猫で30日分弱:粘稠性のため)

 

 

 

◆注意事項◆

⚫︎投与後数時間、血糖値の一過性の上昇が引き起こされる可能性があるので、糖尿病の猫での使用は推奨されない

 

⚫︎猫での投与後4時間までに、心拍数と血圧の一過性の低下が報告されているので、心臓疾患の猫での使用は慎重に行う

 

⚫︎成長ホルモンの分泌促進作用があるお薬なので、成長ホルモン分泌亢進症(先端巨大症)の猫では、注意して使用すること

 

⚫︎肝臓で代謝されるお薬なので、肝機能不全の猫には、注意して使用し、代謝機能が未熟な若齢猫への使用は推奨されない

 

⚫︎長期的に投与する場合は、病状やお薬の安全性の観察に務め、定期的に血液検査を行いながら投与量の調節を行うことが推奨される

 

⚫︎インスリン様成長因子(IGF-1)は、がん細胞の成長や転移に寄与する可能性があり、注意して使用すること

具体的には以下の理由によります。

①インスリン様成長因子1受容体(IGF-1R)と結合して活性化され、細胞増殖を誘導する

②アポトーシスの阻害を行うことで、がん細胞の生存を維持させる

③がんの微小環境における血管新生を誘導する

④骨基質で生成されるIGF-1は、がん細胞のコラゲナーゼ活性と骨芽細胞の活性を増加させ、骨転移に寄与する

…とはいえ、IGF-1に関してこのお薬では、実際に危惧されるような悪影響はこれまで認められていない様です。

 

 

 

◆副作用◆

グレリン様作用による流涎過多(ほとんど一過性)や嘔吐。(オス猫でより顕著)

その他、下痢、貧血、沈鬱、脱水、粘稠性薬剤付着による皮膚炎(口唇、下顎部)など。

 

投与後に、流涎(よだれ)や下痢、一部の猫では軽度の嘔吐が見られることがありますが、通常は一時的のようです。

 

 

 

慢性疾患による食欲不振や体重減少を示す猫のQOL向上のために、新しい選択肢が増えたことで飼い主さまの治療意欲が増し、良い結果が得られることが期待されます。

 

猫ちゃんの 食欲不振でお悩みの方は、ご相談ください。

 

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。