「お薬って、半分の量を飲ませたら、効果も半分になるんでしょ?」
時々(結構😓)飼い主さまから、このようにお話しされることがあります。
『絶対に』とは言えませんが、そうはなりません。効き目も期待できません。
では、『どうして?🤔』 今回はそんな疑問にお答えするお薬のお話です。
まず、お薬の投薬(薬物療法)では、治療の目的部位にお薬が届いて、効果を発揮する必要があります。
薬の投薬方法として、経口投与、注射投与(皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内、髄空内)、舌下・口腔粘膜投与、経直腸投与、経膣投与、経皮投与、点眼、点鼻、吸入投与、噴霧投与などがあります。
それぞれにメリット、デメリットがあり、また治療の目的部位によっても、向き、不向きがあります。
ご自宅での動物への投薬方法は、経口投与がほとんどですので、今回は経口投与を中心にお話しします。
薬の効き目が現れるのは、血中濃度が一定範囲内(有効血中濃度)にあるときです。
濃度が高くなり過ぎれば副作用の心配がありますし、濃度が低ければ薬の効果が現れません。
なので、薬の効き目を安全に、確実に得るためには、決められた量を、決められたタイミングで、飲ませなくてはならないのです。
ただし、お薬の投与量も、投与回数にも、幅(範囲)が存在します。
半分に減らした投与量や回数が、その範囲内であれば、一定の効果はあるはずです。
けれど実際には、副作用を避けるために、可能な限り低容量を少ない回数で、投薬されているはずです。
なので、減らした投与量・投与回数が決められた投与範囲にある可能性は低いのではないでしょうか。
お薬の量や投与回数を減らせば、有効血中濃度に達することができませんので、効果が得られないということです。
さらに、抗菌剤の投与量や投与回数を減らせば、効果がないばかりでなく耐性菌を作ってしまう危険性もありますので、絶対に止めていただきたいです。
それって、細菌に抗菌剤に対するワクチンを接種してあげるようなものです。
猫ちゃんは、もともと使用できるお薬が限られていますので、なおさらです。
ここからは、口から体内に入った薬の経路を辿りながら注意点をお話しします。
投与された薬は、一般的に、『吸収』→『分布』→『代謝』→『排泄』の経路を辿ります。
経口投与では、薬は口や胃で吸収が始まる場合もありますが、大半は小腸で吸収されます。
腸壁を通り、血管内の血流に乗って治療の目的部位に届く前に、代謝を行う肝臓を通過することになります。
実は、飲んだ薬の全部が効力を発揮するわけではありません。
肝臓で薬の一部または大半が、効き目のない別の物質(代謝物)に変えられ、残った薬だけが効力を発揮するのです。
全身を巡る血液循環によって、肝臓を通過するたびに代謝によって薬の量を減らしながらも、有効血中濃度の範囲内では薬は目的部位で作用し、最終的に薬とその代謝物は体外に排泄されます。
◆吸収
経口投与では、消化管内の食べ物や、他の薬やサプリメント、消化器疾患などによって、薬の吸収量や吸収速度が影響を受けることがあります。
その他、年齢、性別、身体活動量、ストレスなどの影響もあります。
同じ薬でも、いつも同じように効いてくれるわけではないのです。
効率良く効いてもらうためには、①空腹時に投与、②食事と一緒に投与、③特定の他のお薬との併用不可 などの注意事項を守る必要があります。
また、病院から処方された錠剤のお薬を、飼い主さまがお家で砕いて粉にして投薬される場合があるようです。
錠剤は、苦いお薬を飲みやすいように表面がコーティングされていたり、胃で解けずに小腸まで届くように腸溶コーティングされているお薬もありますので、粉薬をご希望の場合は、あらかじめお話しいただく方が良いと思います。
また、錠剤を砕いてシロップに溶かして処方する場合もあります。
錠剤を粉薬にするのも同じですが、このように本来の形を変えた薬は、冷蔵保存していただいても時間の経過とともに効力が弱くなってゆきます。
あくまでも『苦肉の策』で、錠剤のお薬は錠剤のまま、飲ませていただくのが一番いいのです。
◆分布
血液循環によって薬は速やかに体内を循環し、血液中からその薬への親和性を持つ組織(治療の目的部位)へと移行します。
薬の分布には個体差があり、肥満動物は脂溶性の薬を大量に蓄積するので、効果が弱かったり、作用が長く続いたりする可能性があります。
◆代謝
薬の代謝とは、体内で起こる薬の化学変化(分解・解毒作用)のことで、主に肝臓で行われます。
飲んだ薬の一部または大半が、効き目を持たない別の物質に変えられてしまい、薬の量が大幅に減ります。
もったいない気もしますが、薬は本来体の中には存在しない『異物』ですので、速やかに体の外に排出できるような最適な分子構造に変化させるという合理的なシステムです。
薬の代謝には、
①目的とする効果を発揮する前に、体内で代謝されるもの(プロドラッグ含む)
②効果を発揮した後に代謝されるもの
③全く代謝さないもの
があり、多くの薬は腸壁と肝臓で代謝されて、薬の有効量が減ります。
そのため、直接血管内に入る静脈注射に比べて、経口投与の場合はロスする分、投与量が多くなっています。
また、肝臓を通過すると効力を失う薬や、効力が著しく低下する薬は、舌下剤、坐薬、噴霧剤として使用され、普通の錠剤はありません。
注射薬、坐薬、貼り薬、塗り薬は、肝臓を通過せずに作用し、注射薬や坐薬はすぐに血液中に入るので、作用発現までの時間が早いです。
品種(遺伝子)、年齢、体重(体脂肪)、腎臓・肝臓の機能、持病、薬の飲み合わせなどが体の処理能力に影響を与えます。
新生児や特定の品種、重度の肝機能障害のある動物では代謝ができない薬があったり、また高齢動物では加齢によって代謝が困難な場合があって、投与量を減らさなければならない場合があります。
また、肝臓を迂回する血液循環をする門脈体循環シャントの動物でも、程度の差はありますが、薬の血中濃度が高くなりすぎて危険だったり、肝臓で代謝されないためプロドラッグは使用できない場合があります。
◆排泄
水溶性の薬とその代謝物は主に腎臓から尿中へ、脂溶性の場合は肝臓から胆汁中に排泄されます。
なので、尿中排泄される薬の投与量や投与の可否は腎機能によって決まります。
胆汁中に排泄される薬とその代謝物は消化管に入り、そのまま便として排泄されるか、または血液中に再吸収されて再利用されます、
肝機能障害が疑われる場合は、肝臓の代謝によって排泄される薬の投与量を調整する必要があります。
このように肝機や腎臓の機能障害があると、薬の代謝や排泄が十分に行われないために、薬が体の中に蓄積して高濃度となるため、通常の投与量でも効きすぎたり、副作用が出たりすることがあります。
その他、唾液、汗、皮脂、母乳、呼気(吐く息)中に排泄される薬もありますが、量的にはわずかです。
以上、動物たちの健康管理のご参考にしていただけましたら幸いです。😊
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。