· 

猫の腎性貧血の治療薬

猫の人生貧血の治療薬/長谷川動物病院
世界初の猫用腎性貧血治療薬 / ゼノアックHPより

 

高齢の猫ちゃんに多い慢性腎臓病。

 

ステージ3以降の進行した腎臓病では、貧血が認められることがあります。

 

猫の慢性腎臓病は、慢性間質性腎炎に分類される場合が多く、糸球体腎炎はまれです。

 

組織レベルでは、尿細管間質の非特異的な線維化、石灰化、炎症が認められます。

 

触診すると、腎臓は小さく固くなっています。

 

このタイプは腎臓の中心付近の間質からじわじわと炎症が波及し、周辺部(腎皮質)にある腎小体が障害を受けるまでに、ある程度時間があるのです。

 

なので猫ちゃんの腎臓病は、早期に適切な治療を開始してあげれば、年単位で長生きしてくれます。他の持病次第でもありますが。。

 

ちなみに腎小体は、血液中から有害な老廃物を取り除くフィルターのような役割をしていて、毛細血管の塊である糸球体と、これを包み込む袋状のボーマン嚢から成ります。

 

さらに腎小体からは尿細管が続いていて、腎小体と尿細管を合わせてネフロン(腎単位)と言います。

 

このネフロンが傷害され作用しなくなると腎不全となり、人間では、定期的な人工透析が行われます。

 

 

腎臓の間質細胞からは、骨髄で赤血球の生成を促進させる働きをするエリスロポエチンというホルモン物質が分泌されています。

 

腎性貧血とは、ヘモグロビンの低下(貧血)に対応する十分量のエリスロポエチンが、腎臓から分泌されないことによって引き起こされる貧血です。

 

そしてこれは本来、貧血の原因が腎臓以外に認められない場合に限られます。

 

けれど実際には、尿毒症などによる赤血球寿命の短縮や消化管出血、鉄代謝異常、食欲不振による栄養障害などが、同時に起きている場合が多いです。

 

さらには、腎臓病以外の慢性炎症性疾患(臓器の炎症や腫瘍)による貧血が、隠れている可能性だってあります。

 

また腎性貧血はゆっくりと進行するので、体が貧血の状態に慣れてしまうのと、猫という動物は体の不調を隠そうとしますので、飼い主さまは気付きにくいかもしれません。

 

けれど、血液検査でヘマトクリット値が20%を切るあたりから、飼い主さまにもわかるくらい動かなくなったり、ふらついたりするようになってきます。

 

動きたがらず、浅く速い呼吸をしたり、歯茎や舌の色が白っぽかったりもします。

 

 

これらのことを踏まえて、

①血液検査で貧血が認められる

②ふらつくなどの貧血の症状が認められる

③飼い主さまが希望される                

などの時には、エリスロポエチン製剤の注射による補充療法が行われます。

 

 

 

エリスロポエチン製剤は、以前はヒト用の注射薬しかありませんでした。

 

ヒトと猫では、エリスロポエチンの構造がとてもよく似ていますので、これまで獣医療ではヒト用のエリスロポエチン製剤が猫に使用されてきたのです。

 

本来はヒト用ですので、使用にあたっては適応外使用であることを飼い主さまに説明します。

 

 

ずいぶん以前は週に2~3回、最近は週1回の注射で治療を行っていました。

 

けれど2023年9月に、猫用のエリスロポエチン製剤が使用できるようになりました。

 

これによって、2週間に1回の注射で同様の効果が得られるようになりました。

 

猫ちゃんたちの通院のストレスも軽減されますね。

 

 

副作用も、ヒト用の製剤よりもリスクは少ないとされています。

 

ヒト用のエリスロポエチン製剤は、継続投与によって猫の体内に異種タンパクと認識され、抗体が作られる可能性があります。

 

私は経験がありませんが、抗体ができるとエリスロポエチン製剤が効かなくなり、骨髄への作用によって逆に貧血が悪化(赤芽球癆)する可能性があります。

 

これらの理由により、以前、ヒト用のエリスロポエチン製剤は腎臓病末期の猫の、いわゆる『最終兵器』としての治療薬でした。

 

抗体産生を恐れて、早期からの使用は避けられていたのです。

 

けれど、猫用のエリスロポエチン製剤は中和抗体産生の危険性がほぼないということで、人間同様に早期から使用でき、その分腎臓の保護作用や貧血改善効果が期待できそうです。

 

早期使用が推奨されるなど、今までの考え方や使用方法を見直す必要がありそうです。

 

 

当然ですが、食欲もなく弱り切った体にエリスロポエチンを投与しても回復の可能性は低いでしょうし、貧血の原因がエリスロポエチンの不足以外の時には、効果は全く期待できません。

 

治療を続けても改善が見られないときは、他の病気が隠れていないか、もう一度確認をする必要があります。

 

また注射と並行して、鉄剤の併用や栄養補給など、『材料不足』による貧血を改善する処置が望ましいです。

 

 

 

◆猫用腎性貧血治療薬エポベット®

遺伝子組み換えネコエリスロポエチンではありますが、タンパク質を含みますので、アレルギー反応が起きる可能性を否定できません。

 

特に、卵アレルギー(鶏肉アレルギーも)の猫には慎重投与が推奨され、注射後しばらく観察が望ましいとされています。

 

定期的な血液検査(ヘマトクリット値等)によって、造血機能の評価と投与量や投与間隔の調整を行うことが望ましいです。

 

また貧血が著しく悪化する前の、より早期の段階から使用することが推奨されます。

 

 

副作用)

血圧上昇、多血症、血栓形成など。

 

高血圧の子は、降圧剤で血圧コントロールを行いながら使用することが望ましいです。

 

 

1番のデメリットは、高価なお薬であるということです。

 

動物に優しいお薬は、お財布には優しくないのですね。世界で初めての画期的なお薬ですから、仕方がないのかな。

 

 

慢性腎臓病の猫ちゃんで、治療を希望される飼い主さまはご相談ください。

 

 

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。