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子宮蓄膿症の内科治療

 

子宮蓄膿症は、外陰部からの細菌感染によって子宮内に膿が溜まる病気です。

 

詳しくは 診療ITEMS・2019/07/14/子宮蓄膿症と不妊手術 をお読みください。

 

避妊手術を受けていない犬、猫、ウサギ、モルモット、ハムスターなどでみられます。

 

犬では高齢な子に多いですが、猫では若い子にも認められ、若い子は無症状の場合が多いように思います。

 

子宮頸管が開いていて、外陰部から膿が排出されていたら解放型、膿の排出がない場合は閉鎖型として分類されます。

 

一般に、閉鎖型の方が発見が遅れることもあって、症状は重篤です。

 

 

犬での発症は、発情終了後2ヶ月以内黄体期に認められることが多いです。

 

なので、避妊手術を受けていないワンちゃんは、毎回の発情(出血)をしっかりと確認してくださいね。

 

犬は妊娠の有無に関わらず、排卵後には黄体ホルモンが分泌され、子宮内が妊娠したような状態になるのです(偽妊娠)。

 

その状態は、開いた子宮頸管から細菌が感染しやすく、また増殖しやすいです。

 

 

子宮蓄膿症の治療の第一選択は、外科手術です。

 

子宮を卵巣ごと取り除くことで、再発リスクがなくなり、治療が手術1回でほぼ終了することが最大のメリットです。

 

また治療コストも、何度も内科治療を行うことを考えると、よほど状態が悪い場合を除いて、外科手術の方が安価で済む場合が多いです。

 

一番のおすすめはやはり、若い時に行う避妊手術です。

 

 

けれど、持病などの原因によって手術が行えない場合もあり、アグレプリストンの登場によって治療の選択肢が増えたのは幸いです。

 

もしも、無治療で様子を見た場合(放置された場合)は、時間の経過とともに悪化し、最悪の場合は死亡します。

 

なので、治療は早いに越したことがなく、そのためには飼い主さまに早く異常に気付いていただきたいです。

 

 

アグレプリストン(アリジン®)は、プロゲステロン受容体拮抗薬で、動物の人工妊娠中絶薬です。

 

妊娠維持に必要な黄体ホルモン(プロゲステロン)と、その受容体との結合を阻害することで、妊娠を阻止させます。

 

黄体ホルモンの作用を一時的に抑制することで、閉じた子宮頸管を緩めて、着床前の受精卵を排出させる働きがあります。

 

この作用は子宮蓄膿症の治療にも有効で、細菌の増殖を抑制し、閉じた子宮頸管を弛緩させて、子宮内に溜まった膿汁が排泄されることが期待できます。

 

また、内科治療薬として以前から使用されているプロスタグランジン製剤と比べて、副作用がほとんどないという点も優れています。

 

難点を挙げるとすれば、薬価の高さですね。

 

 

心臓疾患のある子や、閉鎖型の子宮蓄膿症にも投与が可能です。

 

海外では、動物の子宮蓄膿症の内科治療薬としての実績があり、実際に子宮蓄膿症の治療薬として正式に認可されている国もあります。

 

日本で認可される以前にも、海外からの個人輸入という形で、一部の先生方には使用されておりました。

 

今回の日本での発売は、あくまでも妊娠中の犬の堕胎薬としての認可でした。

 

なので、犬以外の動物での使用や、犬でも子宮蓄膿症の治療薬としての治療は、効能外使用となります。

 

 

そして残念ながら、次の発情後の再発率が高いのです。これが最大のデメリットです。

 

なので、アグレプリストンによって一旦快方に向かっても、発情のたびに予防的な抗生物質の投与が必要になるでしょう。

 

 

アグレプリストンには卵巣にある黄体を退行させる働きがないので、卵巣に黄体が存在し黄体ホルモンが分泌され続ける可能性があります。

 

なので、治療の終了時に血中プロゲステロン値を測定して低下していない場合には、再発に注意しながら経過を観察するか、治療を続けることが推奨されます。

 

一旦快方に向かっても、血液中の黄体ホルモン濃度が高値ならば、再び蓄膿が始まる可能性があるからです。

 

子宮蓄膿症は、黄体ホルモンの影響によって悪化してゆきますので、なので、確実に黄体ホルモンを低下させることのできる外科手術が推奨されるのです。

 

 

 

⚫︎アグレプリストン(アリジン®) 

禁忌)肝腎機能の低下、糖尿病、副腎皮質機能低下症(アジソン病)、健康状態の悪い犬

 

慎重投与)慢性閉塞性気道性疾患、心血管疾患、細菌性心内膜炎

 

副作用)注射部位の局所反応(稀に潰瘍形成、遅発性硬結)、一過性疼痛、

 

注意)抗グルココルチコイド作用を有するため、ステロイド剤による治療効果を弱めてしまう可能性

ケトコナゾール、イトラコナゾール、エリスロマイシン等との併用によって、血中濃度が上昇し、作用が強まる可能性

 

 

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。