糖尿病の治療の目的は、血糖値の適切なコントロールによって、現在起こっている症状をなくし、生活の質を改善させることです。
さらに猫では、自身のインスリン分泌が正常化して、インスリン注射が必要なくなる(寛解)ことも期待できます。
糖尿病の治療は、食事療法プラス、インスリン療法で行われます。(プラス運動療法や併発疾患の治療など)
今回は動物病院で一般的に使用されているインスリン製剤についてのお話です。
その前に。。血糖降下薬という、人の2型糖尿病で使用されている経口薬があります。
このお薬は、膵臓(β細胞)に作用して、インスリンの分泌を促進させるお薬です。
けれど、膵臓を再生させる働きはありません。むしろ逆です。
一時的には良くなったように見えますが、実は終わりを早めてしまうお薬です。
なので、動物では一般的にこのお薬は推奨されておりません。
![インスリン製剤/長谷川動物病院](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/dimension=407x1024:format=png/path/s6353c28beedd635c/image/i5987d5e99b7ddc81/version/1709623088/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%B3%E8%A3%BD%E5%89%A4-%E9%95%B7%E8%B0%B7%E5%B7%9D%E5%8B%95%E7%89%A9%E7%97%85%E9%99%A2.png)
早期にインスリンを投与することによって、膵臓(β細胞)の負担が軽減され(休暇が与えられ)、回復(寛解)に向かう可能性が増すと言われています。
インスリン製剤は複数存在し、現在、主に使用されているは犬猫ともに、プロジンク(PZI)、ランタス、レベミル、トレシーバです。
※プロジンク以外全て人用なので、動物では適用外使用になります
1)形による分類
①注射器型:プロジンク
毎回、冷蔵庫から取り出し内溶液が均一になったインスリンを、バイアル瓶から専用の針付注射器で吸引し、注射します。
②ペン型:ノボリンN、ランタス、レベミル、トレシーバ
毎回、専用の注射針をつけた後、ダイヤルを回して1回空打ちをし、その後ダイヤルで必要量を調整して注射します(10秒間そのままでいます)。
『何時』、『何単位』投与したのか、過去の投与履歴が自動的に記憶されるタイプのものもあります。
個人的には、ペン型が簡単で、飼い主様の負担が少ないと思います。
2)作用時間、ピークの有無による分類
①速効型:30~60分:ピークあり:ノボリンR
②中間型:6~8時間:ピークあり:ノボリンN
③持効型:10~12時間:ピークなし:プロジンク、ランタス、レベミル、トレシーバ
犬猫では、インスリンの作用時間が人間よりも明らかに短いです。
一般的には、作用時間の短い順に
ノボリン < プロジンク < レベミル < ランタス < トレシーバ とされています。
けれど、効果は個体差が大きいので、実際に注射して血糖値の変化を調べなければ、その子に最適なインスリンがどれなのか、わかりません。
理想は、作用時間が12時間で、低血糖にならずに1日のほとんどを尿糖が出ない血糖値の範囲内(犬は200mg/dL以下、猫は300mg/dL以下)に保つことです。
そのために可能ならば、入院していただくか、FreeStyleリブレを装着していただいて、血糖値の変化をモニタリングします。
一般的には、ピークのある中間型は、フードを『一気喰い』する犬猫に推奨されます。
ピークのない持効型は、フードを一気に食べずに、少しずつ時間をかけて食べる子向きです。
なので、犬は中間型(ノボリンN)、猫は持効型(ランタス)が、第一選択とされています。(小型犬はランタスを使用する場合が多いです)
けれど、猫でも『一気喰い』の子は、中間型にするか、持効型にして食事をちょこちょこ与えていただく方がいいかもしれません。
ただしこれは、自動給餌器を用いたり、時間に余裕のある飼い主様限定ですね。
🔸インスリン製剤🔸
◆ノボリンR
主に、入院時の高血糖の治療、糖尿病性ケトアシドーシスの治療に使用します。
静脈、筋肉、皮下の、どの注射でも使用でき、作用時間は30~60分です。
◆ノボリンN(NPH)
フードを一気喰いする犬や猫の第一選択薬とされています。
主に皮下注射で使用し、ピークが2~6時間作用時間は10~12時間とされていますが小型犬や猫ではもっと短いことが多く、うちでは殆ど使用しておりません。
使用開始後は、室温保存で6週間使用可能です。
◆ランタス
フードを一気に食べない猫の第一選択薬で、小型犬でも使用されます。
作用時間はおよそ12時間で、血糖値は速やかに低下して明らかなピークがなく、そのまま効果が一定に続く感じです。
皮下投与するペン型で、投与量を調整できる最小ダイヤル数は1単位。
使用開始後は、室温保存で4週間使用可能です。
◆レベミル
ランタスで血糖コントロールがうまくいかない時の、代替薬です。
ペン型で、ランタスよりも効果がやや強力なようです。
投与量を調整できる最小ダイヤル数は0.5単位。
使用開始後は、室温保存で6週間使用可能です。
◆トレシーバ
ランタスで血糖コントロールがうまくいかない時の、主に猫の代替薬です。
ペン型で、ランタスよりも持続時間が長く、効果はやや弱いようです。
投与量を調整できる最小ダイヤル数は0.5単位。
使用開始後は、室温保存で8週間使用可能です。
◆プロジンク
インスリンでは唯一の動物用医薬品(犬猫)で、ランタスやレベミルよりも作用時間は短いようです。
専用の針付注射器で、必要量をバイアル瓶から吸引して注射を行います。
投与量を調整できる最小目盛数は0.5ユニット。(濃度が薄いです)
使用開始後は、冷蔵保存で60日間使用可能です。
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。