甲状腺は、喉の少し下のあたりの気管の左右に1つずつ、緩く付着している内分泌(ホルモン)器官です。
海藻などの食物中に含まれるヨウ素を材料にして甲状腺ホルモンを作り、血液中に分泌したり甲状腺内に蓄えたりしています。
甲状腺ホルモン(サイロキシン:T4、トリヨードサイロニン:T3)のうち、甲状腺では主にT4が合成されますが肝臓などでT4→T3と変換されて、ホルモンとしての働きを発揮します。
甲状腺ホルモンは、血液によって体のいろいろな臓器に運ばれて、新陳代謝を活発にする働きをしています。
具体的には、体内で脂肪や糖分を燃焼させてエネルギーを作り出したり、交感神経を刺激して心臓や胃腸の働きを高めたり、体温を高めたりしています。
また、脳に作用したり、骨を強化したり(カルシトニン分泌)、精神状態にも影響を与えていて、生物にとって不可欠なホルモンです。
血液中のホルモン濃度は、多過ぎず少なすぎず常に一定に保たれていて、それは脳の下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の調節作用によります。
甲状腺機能低下症は、甲状腺の働きが悪くなり、甲状腺ホルモンの分泌が低下して全身の代謝が落ちた状態になります。
けれど、初期にはあまり症状が認められないことが多く、健康診断の時の血液検査で発見される場合が多いです。
5歳以上の中~高齢犬での発症が多くて、猫ではまれです。
犬の甲状腺機能低下症は、クッシング症候群に次いで犬で多く見られる内分泌疾患です。
シェルティ、ゴールデンレトリバー、ビーグルなどがなりやすい犬種として挙げられますが、日本での現在の飼育頭数を考慮すると、T.プードル、柴犬、M.シュナウザーなどでの発症数が多くなります。
ちなみに、『ヨウ素』を大量に摂取すると甲状腺の機能が抑えられて、機能低下症になることがあります。
なので、毛艶のない人や薄毛の人にワカメなどの海藻を勧めるのは、適切とは言えないかもしれませんね。
原因)
①原発性:自分の免疫によって甲状腺が破壊される(自己免疫性)リンパ球性甲状腺炎や、原因不明の甲状腺濾胞萎縮(非炎症性)
②下垂体性や視床下部性:甲状腺機能を直接または間接的に調節している脳内の内分泌器官の腫瘍など
③その他:甲状腺腫瘍、先天性甲状腺機能低下症など
症状)
①動作が鈍くなる、認知機能の低下
②常に眠たそう、だるそう、無気力、疲れ顔(悲劇的顔貌)
③寒がり、体温が低い、
④食事量は増えていないのに体重が増える、むくみ
⑤便秘、繁殖障害
⑥皮膚が分厚くなり黒くなる(色素沈着)、乾燥or脂っこい、治りにくい皮膚病(脂漏症、膿皮症)、左右対称性脱毛(胴体、尻尾)
⑦パンティングしない、心拍数、呼吸数、血圧の低下
⑧筋力が低下する、顔面神経麻痺、発作
⑨貧血、肝機能障害、高コレステロール血症
診断)
血液検査(T4、fT4、TSH)→ T4低下、TSH上昇
🔸euthyroid sick (ユーサイロイドシック)症候群🔸
真の甲状腺機能低下症ではなく、甲状腺以外の病気(糖尿病、クッシング症候群、全身感染症、心臓病、悪性腫瘍など)や、薬(抗てんかん薬、ステロイド剤)の影響で、甲状腺ホルモンの数値が低下する場合です。
なので、他の病気がないか、血液検査や画像検査で確認する必要があります。
治療)
不足している甲状腺ホルモンを補うために、甲状腺ホルモン製剤(錠剤)を投与します。
投与量は血液検査の結果によって増減しますが、投与期間は基本的に一生涯となります。
適切に投与されていれば予後は良好で、普通の生活が送れます。
🔸euthyroid sick 症候群の場合の甲状腺ホルモンの低下は、身体の代謝を低下させて(エコモード)、余計なエネルギーの喪失を抑えているだけなので、原因となっている病気が改善されれば甲状腺ホルモンの数値も改善されるはずです。
なので、euthyroid sick 症候群の時の甲状腺ホルモン製剤の投与は、むしろ害となるため適切ではありません。
甲状腺機能低下症は、有効な予防法がありませんので、早期診断、早期治療が重要です。
まれですが、長期間放置されることによって命に関わるような粘液水腫様昏睡へと、重症化する場合があります。
症状が、高齢犬の加齢による正常な変化と思われがちですが、気になる症状がある場合は、早めの診察をお勧めします。
5歳からの中年期以降は、定期的な健康診断と血液検査で、病気を早く見つけて治療してあげましょう。
以上、動物たちの健康管理のご参考にしていただけましたら幸いです。😊
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。