副腎は、左右の腎臓の近くに1個ずつ、計2個ある内分泌(ホルモン)器官です。
構造上、皮質(外側)と髄質(内側)に分かれていて、皮質はさらに3つに区分され、それぞれ重要な働きをするホルモンを分泌しています。
⚫︎副腎皮質 の分類(分泌されるホルモン)
球状帯:電解質バランスの調節(アルドステロン)
束状帯:糖質、タンパク質、脂肪の代謝の調節(コルチゾール)
網状帯:性ホルモン分泌(エストロゲン、アンドロゲン)
副腎髄質の細胞質内には多量の微細顆粒が存在し、重クロム酸カリウムなどで固定すると強い褐色となります。
なので副腎髄質の細胞は、褐色細胞とか、クロム親和性細胞と呼ばれます。
髄質細胞の顆粒には、カテコラミンと総称される、アドレナリン(エピネフリン)とノルアドレナリン(ノルエピネフリン)が含まれていて、心臓を強く収縮させたり体の末端の細い血管を収縮させたりして血圧を上昇させ、目の瞳孔を大きくしたり、血糖値を上昇させるなど、体を興奮状態にする働きをしています。
※アドレナリンとエピネフリンは同じもので、アドレナリンの命名者が日本人、エピネフリンの命名者がアメリカ人で、アメリカではエピネフリンが使用されています。
※副腎髄質から分泌されるのは、アドレナリンが約80%、ノルアドレナリンが約20%。
アドレナリンは主に心臓に作用して心臓を強く収縮させ、ノルアドレナリンは血管平滑筋に作用して細動脈を収縮させ、どちらも血圧を上昇させます。
副腎などの内分泌器官にできる腫瘍は、ホルモン物質が過剰に分泌されて亢進症状が現れる機能性腫瘍と、分泌されず無症状な非機能性腫瘍があります。
今回は、血圧の上昇を伴う副腎腫瘍である、原発性アルドステロン症と褐色細胞腫のお話です。
ちなみにどちらもレアで💦 発生率では、同じ副腎疾患であるクッシング症候群(コルチゾール過剰症)の方が圧倒的に多いです。😅
※本態性高血圧は原因不明の高血圧で、遺伝的素因と環境因子が関与していると考えられ、2次性高血圧は、今回のお話のような様々な基礎疾患の影響で引き起こされます
1)原発性アルドステロン症
副腎皮質の腫瘍(ごくまれに特発性過形成)によって、アルドステロンが過剰に分泌されたときに起こります。
猫でしばしば報告され、犬での報告は少ないです。
症状)
高ナトリウム、低カリウム、低リン血症、代謝性アルカローシス(低H+)、後大静脈血栓症など。
高ナトリウム血症は、高血圧、中枢神経症状、眼底出血(失明)、心臓血管障害などを引き起こします。
低カリウム血症は、筋肉の力が弱くなる筋肉の疾患(ミオパチー)を引き起こします。
低リン血症は、赤血球の破壊を引き起こし溶血性貧血となる場合があります。
悪性の副腎皮質癌は、良性の腺腫よりも発生頻度は少なく、腺腫よりも大きくて両側性に発生しやすく、出血を伴い周囲組織に浸潤し、後大静脈内に腫瘍血栓を形成することもあります。(逆に腫瘍塞栓が見られたら腺癌の可能性が高いです)
診断)
血液検査、超音波検査
治療)
外科切除、内科治療
2)褐色細胞腫(クロム親和性細胞腫瘍)
副腎髄質や、傍神経節のクロム親和性細胞から発生する神経内分泌腫瘍です。
機能性腫瘍と非機能性腫瘍があり、機能性腫瘍はカテコラミンを産生します。
副腎髄質から発生したものを褐色細胞腫、傍神経節から発生したものをパラガングリオーマ(副腎外褐色細胞腫)と、区別されることもあります。
猫では極めてまれですが、犬で時々報告があり、犬では良性と悪性は半々と考えられています。(ヒトでは90%が良性)
動物の場合は、本人(犬猫)の意思ではなく、飼い主さまが異変を感じて動物病院に来院されますので、来院されない症例も一定数いるはずです。
なので、案外ヒトと同等なのかもしれませんね。
明らかな性別や品種の素因のない中~高齢犬で発症します。
腫瘍は一般的に孤立性、片側性に発生しますが、両側性の場合もあります。
診断時にすでに、遠隔転移(肺、肝臓、脾臓、膵臓、腎臓、骨、心臓、膵臓、リンパ節)を起こしている症例が40%と報告されていて、隣接組織への浸潤(後大静脈や腎静脈内の腫瘍塞栓)の割合が多いです。
症状)
頻脈、高血圧、後肢の浮腫、心臓肥大、失明、鼻出血、虚脱、腹腔内出血、腹水など。
半数程度は無症状であり、機能性腫瘍の症状は主にカテコラミンの過剰によるものです。
カテコラミンの放出は一時的なために、症状は持続せずに間欠的です。
なのでわかりにくいですし、急に容態が悪化して亡くなる場合もあります。
パンティング、落ち着かない、不安、呼吸困難、食欲不振、嘔吐、下痢、多飲多尿、発作、などの症状が一時的に現れたり、消えたりします。
制吐剤(メトクロプラミド)投与によって高血圧症状が悪化した場合は、褐色細胞腫が疑われます。
診断)
超音波検査、血液内分泌検査(副腎皮質の腫瘍の除外のため)
褐色細胞腫は石灰化を起こさないのでレントゲンではわかりにくいです。
カテコラミンは生理的な変動がとても大きく、また腫瘍からの放出も間欠的なために、血液検査は当てになりません。
アルドステロン症の除外による仮診断で、α1拮抗薬による診断的治療も有効です。
治療)
外科切除、内科治療
以上、動物たちの健康管理のご参考にしていただけましたら幸いです。😊
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。