会陰ヘルニアは、会陰部(肛門と外陰部の間、その周辺)の皮下に、脂肪や大網、小腸や膀胱などの、体腔内臓器が移動してくる病気です。
糞塊が溜まった直腸(や直腸憩室)が、皮下に突き出ている場合もあります。
中高齢の去勢されていない雄犬での発症がほとんどで、ごく稀ですが猫や雌犬での報告もあります。
来院時には、ほとんどの子は肛門の周囲(片側or両側)がぽこっと腫れていて、便が出にくい、排便時に痛がり出血する、尿が出ないなどの症状があります。
肛門周囲の特徴的な外観や症状から、診断は容易です。
直腸検査や画像検査、血液検査、動物の病態や性格、飼い主様のお考えなどによって、治療内容を検討します。
会陰ヘルニアでは、内臓が骨盤腔を通って会陰部皮下に移動することを防ぐ『壁』の役割を果たす骨盤隔膜(尾骨筋、肛門挙筋)が萎縮して、直腸の周りに隙間ができます。
そこから腹圧によって、体腔内の臓器が皮下に移動してきます。
この隙間を無くさない限り、正常に排便や排尿ができません。
なので隙間を塞ぐ、または埋めるための早期の外科手術と、再発予防のための去勢手術が推奨されます。
会陰ヘルニアの手術は、残念ながら統計的に再発率の高い手術に分類されます。
再発予防のためには外科手術プラス内科治療や生活習慣の改善が推奨されます。
内科治療だけでは正常な排便や排尿はほぼ不可能で、飼い主様による排便時の介助や、病院での定期的な便の掻き出しが必要となる場合が多いです。
今回は、会陰ヘルニアの外科手術についてのお話です。
外科手術は大きく分けて2つです。どちらの場合も去勢手術は必須です。
①筋肉縫合
②人工材(医療用メッシュ)の埋め込み縫合
病態に応じて、症状の改善と再発予防のために、a)結腸腹壁固定術、b) 精管(膀胱)腹壁固定術、c)直腸縫縮術、などが追加されます。
①筋肉縫合
直腸の周りにできた隙間を、解離した筋肉同士を縫合し壁を作ることで塞ぎます。
尾骨筋、肛門挙筋、外肛門括約筋の縫合に加えて、a)内閉鎖筋、b)浅殿筋、c)半腱様筋、などを筋肉弁として利用する場合があります。
実際には、すでに骨盤隔膜(尾骨筋、肛門挙筋)がスジ状に萎縮していて縫合できない場合が多いです。
そんなときは、縫合可能な筋肉を探し、精巣の総鞘膜の縫合や人工材の埋め込み縫合に変更するなど、状況に応じて臨機応変に対応します。
もちろん、あらかじめ飼い主様に説明をして了解を得て行います。
②人工材の埋め込み縫合
直腸の周りにできた隙間に、医療用ポリプロピレンメッシュを三角コーン状に整形して埋め込んで塞ぐ方法です。
筋肉同士を縫合する方法に比べて、縫合糸に掛かる張力が弱められ縫合部位の破綻を防ぐ効果が期待されます。
どちらの方法にもメリットとデメリットがあり、飼い主様にはその点をきちんと理解し納得していただく必要があります。
手術時間の短縮、再発率の低減、経過が長く筋肉が縫合に適さない場合は、医療用メッシュの埋め込み縫合が推奨されます。
けれど、体にとって『異物』である人工材に対するアレルギー反応や感染の可能性、術後初期の異物感や違和感、材料費が高価というデメリットがあります。
まだ初期で、縫合できるしっかりした筋肉が存在する場合や、長時間の手術が可能なときは、筋肉縫合が可能です。
けれど、筋肉が薄く脆くなっている場合は縫合しても破綻しやすく、徐々に開いてくる場合があります。
結合組織がうまく縫合部分を補強して、隙間を埋めてくれるのが理想です。
そうなるまでには時間が必要で、腹圧によって縫合部分が破綻しないように、鎮痛剤を使用して腹圧の上昇の予防に努めます。
また片側だけが膨らんでいても、必ず反対側も筋肉の萎縮は進行していて、手術後に圧力が集中することによって、反対側も発症する可能性が高いです。
なので、手術後の縫合部位にかかる圧力を減らすために、できれば2回に分けて手術を行うことが、再発率を低下させることにつながるはずなのですが。。
飼い主様は1回での手術を希望される場合が多く、また手術・麻酔時間が長くなり手術費用も高くなりますので、動物の状態や飼い主様とのお話し合いによって手術方法は選択されます。
また手術が成功しても、吠え癖や、後ろ足での飛び跳ね、肥満などによる慢性的な強い腹圧によって、特に筋肉縫合の縫合部位が破綻する可能性が増加します。
再発予防のためには、食事療法に加えて、生活習慣の改善もとても重要です。
良い結果を得るためには、飼い主様の病気に関する正しいご理解と治療へのご協力が不可欠です。
一緒に生活をし、動物の一番近くに一番長くいる人だからです。
その分負担も大きいのですが、可愛いワンコのために一緒に頑張りたいと思っています。
気になる症状のある方は、ご相談ください。
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。