『会陰(えいん)』とは、肛門と外陰部(膣や陰嚢)の間の領域のことです。
ワンコやニャンコさんたちが『お座り』した時に、ちょうど床面にペチャって着いている辺りですね。😊
去勢手術をされていない、中高齢のオス犬で、排便の時になかなか出ずに力んでお尻周りがポコっと膨らむ子がいます。
進行すると自力で排便できなくなり、常にお尻回り(片側や両側)が膨らんだままになったり、出血や痛みを伴い苦しむ場合もあります。
それが『会陰ヘルニア』です。
直腸(大腸)は、排便前の便が蓄えられる場所で、その前の結腸(大腸)で便中の水分が吸収されます。
結腸だけでなく、直腸でも便が長く留まれば硬い便になってゆきます。
肛門に続く会陰部の直腸は、周りをいろいろな筋肉が分厚く取り囲む形で固定されていて、まっすぐに伸びています。
会陰ヘルニアでは、骨盤腔との隔壁の役割を果たし、直腸や肛門を取り囲み支持している複数の筋肉が萎縮して、直腸の周りに隙間や空洞ができます。
片則性の場合は、肛門の位置もズレています。
そのため、直腸が不安定となりクネクネと蛇行してしまうために、力んでも排便することができず便が出口近くに溜まってしまうようになります。
硬くなった便によって内側から圧迫された直腸の腸壁は、風船のように薄く脆くなるために、粘膜から出血し痛みが生じます。
また直腸の周りにできた隙間から、脂肪や大網、膀胱、小腸などが、腹圧によって骨盤腔を通り、会陰部の皮下まで移動してくることもあります。
それらの臓器が圧迫されて血流が妨げられると組織が壊死したり、排尿できなければ尿毒症(腎不全)となって死亡する危険性もあります。
そのような時は、緊急の手術が必要になる場合もあります。
会陰ヘルニアは自然治癒することはありませんし、時間の経過とともに悪化し重症化してゆきますので、できるだけ早めの治療(外科手術)が推奨されます。
直腸の周りにできた隙間を塞いであげることが根本的な治療法です。
排便時間が長くかかったり、毎回強く力んでいる(うんちが出にくい)というのが、初期症状です。
未去勢の子が便秘のような症状で、フードを変更しても改善されない場合は、相談していただきたいです。
初期のこの状態の時に、まだ筋肉が形として残っている時に、外科手術(筋肉縫合)+去勢手術を行うのが理想です。
進行するほど、
⚫︎開腹手術(結腸の腹壁固定や精管の腹壁固定など)
⚫︎医療用メッシュの埋め込み縫合
⚫︎広がってしまった直腸の縫縮
などの手術が必要となり、費用もその分かかることになります。
そして残念ながら、手術後の再発率も上昇してしまうのです。
また、医療用メッシュは非吸収性の人工物であり、体にとっては『異物』ですので、縫合糸と同様に、アレルギー反応や感染を引き起こす可能性があります。
直腸の周りの筋肉が萎縮してしまう原因は、はっきりとわかっていません。
けれど、去勢されていない男の子での発症がほとんどですので、男性ホルモンの関与があると考えられています。
若いうちに去勢手術をすることで予防できる病気の1つです。
⚠️なりやすい子 = お腹に力が入り腹圧がかかりやすい子 → 再発率を高めます!
⚫︎吠え癖がありよく吠える子、興奮しやすい子
⚫︎後ろの2本足で立ってピョンピョン飛び跳ねる子(⚠️軟骨異栄養犬種の子は特にさせないことをお勧めします)
⚫︎慢性の呼吸器疾患で咳が続く子
⚫︎肥満の子:内臓脂肪が増えて常に腹圧がかかり筋力も低下しやすい
その他、筋肉が薄くなる病気、クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)やステロイド剤の長期連用や高用量投与中などの子も要注意です。
検査)
⚫︎直腸検査
⚫︎レントゲン検査(直腸造影)
⚫︎血液検査
治療)
①外科治療
a)筋肉縫合
b)医療用メッシュの埋め込み縫合
+去勢手術、結腸の腹壁固定(直腸の移動を防ぐため)、精管(or膀胱)の腹壁固定、直腸の縫縮など
②内科治療
a)食事療法+緩下剤
b)排便介助、便の掻き出し
c)その他、補液、抗菌剤、鎮痛剤投与など
内科治療は外科手術前後の補助療法として、また心臓病や腎臓病などの持病があり長時間の麻酔や手術に耐えられない子に対して、行われます。
会陰ヘルニアは、内科治療で元通りに治ることはありません。あくまでも補助的な治療であるとご理解ください。
内科治療だけで排便可能な子もいますが、最終的に自力での排便が困難となり、定期的に便を掻き出してあげなくてはならなくなる場合もあります。
便が溜まっている場所は、直腸の腸壁が薄く脆くなっていますので、お家で排便の介助を行うときには、穿孔させないように気をつけてください。
会陰ヘルニアは、進行性で再発率の高い病気であり病態は個々によって違いますので、治療にあたってはご家族との話し合いがとても重要です。
病気のことを正しく理解していただいて、その子にとってベストな選択を一緒に考えたいと思っています。
気になる症状のある方はご相談ください。
以上、動物たちの健康管理のご参考にしていただけましたら幸いです。😊
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。