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心臓病の血液検査

 

犬も猫も長生きをするようになって、心臓病が増えてきています。

 

特に猫ちゃんは、大型の洋猫の血筋が増えてきたのと同時進行で、増えていると感じます。

 

心雑音が聞き取りやすい犬の心臓病と違って、猫の心臓病では心雑音を聴き取ることがなかなか難しいです。

 

その上、猫ちゃんはおとなしくじっとしていてくれる子が少なくて、心臓の超音波検査(心エコー検査)が難しいです。

 

心臓のエコー検査は、心臓内部の形態観察や収縮力などの運動性の評価、血液の流れをリアルタイムで観察できるので、心臓病の子たちには必須です。

 

けれど、継続的に正く心臓の病状を観察するためには、ルーティーンのように横向きの同じ姿勢で、同じ順番にプローブを当てる必要があります。

 

現実的には、それはなかなか難しい。。😩

 

立ったままの状態で、プローブを当てて必要な画像を保存できたら、いい方だったりします。

 

ワンちゃんも同様で、なかなかじっとしてくれない子は少なからず存在します。

 

心臓病なので、あまり興奮させたくない気持ちもあります。

 

そんなワンちゃんや猫さんたちには、心臓の血液検査がお勧めです。

 

 

現在、犬猫用では、検査の目的に応じて4種類の心臓バイオマーカーが利用可能です。

 

 

採血のみの短時間で検査が終了しますので、動物たちへの負担の少ない優しい検査です。

 

結果が数値化されますので、飼い主様にもわかりやすいと思います。

 

心雑音がなくても、健康診断で早期に心臓病を発見できたり、さらにその重症度や治療の効果を評価することができます。

 

また、咳や呼吸が早いなどの症状の原因が、心臓病によるものなのか、他の原因によるものなのかを確認することもできます。

 

ワンちゃんは、若くて心雑音がなくても、キャバリアなどの心臓病になりやすい犬種や、小型犬種の子たちにお勧めです。

 

猫ちゃんは、心臓病になりやすいメインクーンラグドール、スコティッシュフォールド、ノルウェージャンフォレスト、アメリカンショートヘアーペルシャ日本猫(mix)などの子たちは特にですが、他の品種でも同様です。

 

検査の数値が高かった時には、改めてレントゲン検査や心エコー検査、心電図検査、血液生化学検査などが推奨されます。

 

 

 

NT-proBNP (エヌティープロビーエヌピー)

主に心臓の心筋細胞で産生され、心房への負荷が大きくない場合でも、心室の筋肉に伸展負荷(圧負荷)が加わると血中に放出されることから、心臓のバイオマーカーとして利用されています。

 

心臓(心室)が肥大して大きくなる猫の心筋症の検出や重症度の評価に向いています。

 

BNPは血液中に放出されると、ナトリウム利尿作用、血管拡張作用、アルドステロン分泌抑制作用、交感神経系の抑制作用、心筋線維化(リモデリング)抑制作用などを発揮し、心臓の負担を軽減する働きをしています。

 

そのため、日本ではANP、米国ではBNPが、急性心不全治療薬として臨床応用されています。

 

血中 NT-proBNP (N末端 proB型脳性ナトリウム利尿ペプチド)濃度は、心筋症猫の重症度と一致して上昇していることや、肥大型心筋症の猫では、左心房拡大や左心室壁の肥厚と一致して血中NT-proBNP濃度が上昇し、これらは有意に相関していることが明らかとなっています。

 

 

さらに、無症状の心筋症猫の血中 NT-proBNP濃度は正常猫よりも有意に高値を示し、無徴候の心筋症の検出精度が非常に高いことが報告されています。

 

なので、心臓病の好発品種の猫ちゃんの早期診断や、健康診断時の心臓バイオマーカーとしては、1番お勧めです。

 

この値が高い時には、高率に心疾患が存在すると言えます。

 

ただし、検査によって心臓への負担の大きさを評価できる反面、その原因を特定することはできません。

 

心臓病以外にも、心筋に負荷のかかる高血圧を引き起こす、腎臓病、糖尿病、甲状腺機能亢進症、副腎皮質機能亢進症、副腎腫瘍、肺高血圧症などによって、また体外への排出が抑制される腎機能障害の時には、高値となる可能性があります。

 

さらに、不整脈を原因とする心臓病の場合には数値は高くなりません。

 

 

 

ANPエーエヌピー)

ANPには、ナトリウム利尿の促進と血管拡張作用があります。

 

主に心房の筋肉で産生・貯蔵され、心房の伸展負荷(容量負荷)によって血中に放出されるので、(左)心房拡大の指標として測定されます。

 

特に、容量負荷疾患である犬の僧帽弁閉鎖不全症では重症度に応じて優位に上昇しますので、この検査はワンちゃんにお勧めです。

 

また、猫の心筋症のステージ分類(ACVIM)において、(心不全兆候のない)左心房の拡大は、投薬治療の開始が推奨されるステージB2に相当します。

 

同様に、犬の僧帽弁閉鎖不全症ステージ分類(ACVIM)においても、(心不全兆候のない)左心房の拡大は、投薬治療の開始が推奨されるステージB2に相当します。

 

興奮したり運動の後では心臓に負荷がかかり、測定結果が高値になる可能性がありますので、採血前に20分ほどの安静が推奨されます。

 

またこの検査は外注の検査のため、検査結果がわかるまでに時間がかかりますので、緊急時以外の検査がお勧めです。

 

 

 

NT-proANP (エヌティープロエーエヌピー)

ANPと同様に、主に心房への伸展負荷(容量負荷)が増加すると血液中に多く分泌されるので、(左)心房拡大の指標として測定されます。

 

ANPよりも血液中の安定性が高く血清での計測が可能で、同様に凍結処理は必要ですが、ANPよりも検体処理が楽なのが利点です。

 

 

 

心筋トロポニンI(TnI)

トロポニンは、骨格筋と心筋(筋原線維)に存在するタンパクです。

 

心筋梗塞のような、心筋細胞の壊死を伴うような損傷によって血中に放出されるため、心筋の障害の強さが数値で反映されます。

 

測定の最小単位が従来の検査法よりも小さいため(0.001ng/ml)、微小な心筋障害も検出することができます。

 

虚血性心疾患などの心臓病が進行して心筋の障害が推測される子に、心筋の障害程度や予後の評価のための検査が推奨されます。

 

猫の心筋症で高値となることが多く、また犬の拡張型心筋症心筋炎などの心筋障害が疑われた場合には、検査が推奨されます。

 

 

 

 

心臓病に限らず血液検査は、それだけでは決して完璧とは言えず、あくまで補助的な検査です。

 

他の検査も同様で、それぞれ得意不得意があります。

 

なので異常が認められた子は、できる限りレントゲン検査や心エコー検査、心電図検査、血液生化学検査などの他の検査と合わせて、総合的な診断や治療が望まれます。

 

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。