昔、妊婦さんに対して「飼い猫は処分してください」と、平然とお話しされる産婦人科の先生がいらしたそうです。
現在はもう、そういうことはないと思いますが(そう思いたいです🥺)。
ちょっと耳を疑いますね。悲しいです。
その原因は、トキソプラズマです。
『物怖れは不案内から』
人は、知らなかったり理解できない人やものに対して、拒否反応や不安を抱くものです。その先生もそうだったのでしょう。
なので正しく知って理解して、そんな不安を取り除いていただきたいと思います。
今回は、そんな妊婦さんに知っていただきたい、寄生虫トキソプラズマに関するお話です。
トキソプラズマは、人間を含むほぼ全ての温血脊椎動物(哺乳類・鳥類)に寄生する寄生虫です。
寄生虫というと気持ち悪い気がしますが、原虫という単細胞で目に見えない、光学顕微鏡でも見つけにくいほど小さくて、細菌ほどの大きさです。
世界中全人口の1/3が感染していると言われていて、比較的ポピュラーな寄生虫です。
昔は、人間に感染させる原因であるとして、猫が悪者扱いされていたのです。😿
現在では、猫から直接よりも、加熱不十分な食肉や汚染された土壌や水からの経口感染が指摘されています。
妊婦さんに関しては、妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した場合に限り、問題となります。
人間も猫も、感染は血液検査でわかります。(血中トキソプラズマ抗体検査)
感染していない妊婦さん + 感染していない(or感染直後の)猫ちゃん →この組み合わせが要注意!なのです。
逆に、猫ちゃんの感染の有無に関わらず、感染していた妊婦さんは安心です。
仮に再感染しても、免疫によってトキソプラズマの増殖が抑えられるからです。(終生免疫)
けれど、感染していなかった方が妊娠中に初めて感染すると、胎児に先天性トキソプラズマ症を発症させる可能性があります。
(初感染であっても妊娠2週以前での発病は無く、3週目から14週までの感染では胎児への感染率は7%と低いですが、流産や早産、水頭症など重症度が高くなると言われています)
ちなみに、人間が生後トキソプラズマに感染しても、健康であればほぼ無症状のようです。(良くも悪くも性格的に色々な影響があるという説もありますが…)
なので、検査でトキソプラズマに感染していなかった妊婦さんは、感染を防ぐために、以下の注意が推奨されます。(⚠️猫ちゃんが未感染の場合は尚更です)
①お肉は中央までよく加熱し、生肉を食べない(猫にも)
②生肉を調理した後のまな板や包丁などの調理器具や手をよく洗う
③土のついた生野菜や果物はよく洗い、食事の前にはよく手を洗う
④湧き水や井戸水、生乳(牛、山羊など)などは、必ず煮沸する
⑤土いじり(ガーデニングなど)の時は手袋を使用するか、よく手を洗う
⑥猫のトイレは毎日、できれば排便直後に掃除する(オーシストが感染力を持つまでに最低24時間必要だから)
⑦妊娠中に新しく子猫を飼うことは控え、外で野良猫と接触しない(触ったら帰宅直後によく手を洗う)
⑧念の為、飼育中の猫のお世話は他のご家族にしてもらい、猫を外出させない
⑨外出からの帰宅時と食事の前には必ずよく手を洗う など。
トキソプラズマ以外にも、生ハム、生卵、生魚、ナチュラルチーズ、お酒もタバコもダメとか、妊婦さんは気をつけることが多くて大変ですね。
元気に生まれてきてくれた赤ちゃんを、その手に抱くその日まで(その後も)、お母さんには頑張っていただきたいです。もちろん、お父さんも一緒に。😊
トキソプラズマ症とは、アピコンプレクサ門に属する寄生性原生生物(原虫)によって引き起こされる動物由来感染症です。
寄生虫なので、中間宿主と終宿主が存在し、人間は中間宿主という位置付けです。
終宿主はネコ科の動物。なのでトキソプラズマは猫の消化管内でのみで増殖し、糞便とともに卵のようなもの(オーシスト:感染源)が体外に排出されます。
猫だけがオーシストを排出しますが、感染した猫がオーシストを排泄する期間は、実はとても短いのです。(初感染後数日~最長2週間)なのに悪者扱い😾
なので念の為、飼い始めたばかりの特に子猫は、最低2週間はケージなどで要観察とし、トイレ掃除は最低限1日1回行ってください。
そして、オーシストによる土壌や水の汚染を防ぐために、糞便は必ず燃やすゴミとして処分し、トイレ容器の熱湯消毒をお勧めします。
トキソプラズマだけでなく、他の回虫などの寄生虫による土壌汚染を防ぐためにも、犬も猫も、その糞便は、土に埋めたり水に流さずに、燃やすゴミとして処分していただきたいです。
完全室内飼育されている大人の猫でも、未感染の子は、トキソプラズマに感染する可能性があるので、やはり注意が必要です。
人間やその他の動物への感染源は、トキソプラズマ虫体(シスト)が存在する感染した豚肉などの食肉と、オーシストに汚染された土壌や水や猫(体表)です。
シストやオーシストを口から飲み込むこと(経口摂取)によって感染します。
稀に、汚染された手で擦った時の目(眼瞼結膜)からの感染もあるそうですが、空気感染や経皮感染はないとされています。(傷のある手で土を触った場合は危なそうですが)
猫ちゃんは、完全室内飼育を徹底し、人間同様に、加熱不十分なお肉やミルク、お水を与えないように注意してください。
犬や猫が感染しても、ほとんどが無症状のままです。
けれど、猫白血病ウイルスや猫エイズウイルス感染、ストレスなどによる免疫抑制状態にある猫は、重篤な症状を引き起こす場合があります。
オーシストは、次亜塩素酸やエタノールなどの消毒液に強く抵抗し、-20℃で1ヶ月、屋外で1年以上も生存可能とされています。
猫のトイレ(オーシスト)を消毒する場合は、熱湯消毒がお勧めです。
お肉(筋肉)内のシスト虫体は、67℃以上で1~2分加熱すると死滅します。
電子レンジによる加熱では、お肉内部温度の十分な上昇が得られないため確実ではありません。お肉は必ずwell-doneでお願いします。
人間も猫も、トキソプラズマ症は抗菌薬による治療が行われます。
ところで、トキソプラズマ感染者は感染していない人と比べて、失敗を恐れる気持ちが低く、リスク許容度が高く、起業思考が強い傾向があるのだそうです。(反面、怪我が多く、事件・事故に巻き込まれやすい)そして猫好き。😽😍
トキソプラズマ感染ネズミは、猫に食べられるために、わざと猫の目の前に出てくるのだとか。
ネズミも人間も、同じ中間宿主ですからね。猫に食べられなければ、トキソプラズマは最終目標のオーシスト(卵のようなもの)を作れません。
都合の良いように、中間宿主の性格や行動を支配するなんて、寄生虫トキソプラズマ、恐るべしですね。😵
以上、動物たちの健康管理のご参考にしていただけましたら幸いです。😊
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。