前庭は、左右の、耳の奥の内耳に1つずつあって、体の平衡(バランス)感覚を司る器官です。
体がどのくらい傾いているか、どのくらいの速さで回転しているか、などの情報を信号化して脳に伝えています。
私たちは、左右両方の前庭からの情報が脳に正しく伝わることによって、目や頭の位置を正常に保つことができています。
なので、片方の前庭の障害によって脳が混乱したり、情報を受け取る側の脳の障害では、突然の目が回るような強烈なめまいと吐き気・嘔吐が生じて、安静にしていてもなかなか治らず、動いたりするとさらに悪化したりします。
これが前庭疾患(症候群)で、前庭障害の症状を示す病気の総称です。
ひどい乗り物酔いや、船酔い状態が続くような感じです。😵💫
抱き上げられるとパニックを起こしたり、暗い場所や寝起きに症状が悪化することが多いのも特徴的です。
おそらく、視覚や触覚などの他の感覚を総動員して、うまくバランスを保とうと頑張っているのでしょうね。
くるくる回っていても本人はまっすぐに歩いているつもりのようです。それだけ脳が混乱しているのですね。🥲
さらに、両側性に異常をきたすと斜頚や眼振はあまり認められませんが、歩くときにバランスが取れずにふらつくことが多いです。
犬や猫が、突然その場でぐるぐる回りだしたり、立っていられずによろけて倒れてしまったり、首が曲がったり、眼球が小刻みに揺れていたり、吐き戻したり、よだれを垂らしていたら、特に高齢の子では、前庭の疾患が疑われます。
前庭疾患では、内耳、前庭神経(内耳神経の1つ)、脳幹、小脳の、前庭系のどこかが障害されて起こります。
前庭系は末梢と中枢に分類されます。
末梢前庭:内耳、前庭神経
中枢前庭:脳幹、小脳の一部(片葉)
犬や猫の前庭疾患の多くは末梢前庭の障害に基づくものです。
中枢性前庭疾患は比較的稀ですが、腫瘍性のものでは予後は悪いです。
症状)
●斜頚:異常のある側に首を傾げる(小脳の片側障害では例外的に正常側へ)
●眼振:意思とは無関係に小刻みに揺れ、中枢性では頭位変換によって変化する
●旋回:同じ方向へ円を描くように回る
●立っていられない、歩けない、転倒する
●吐き気・嘔吐、流涎(りゅうぜん:よだれ)
●食欲不振
●聴覚障害 など
原因)
①末梢性
●中耳炎、内耳炎
●感染症
●特発性:原因不明
●内耳の外傷、腫瘍・ポリープ
●甲状腺機能低下症
●先天性
●薬剤、化学物質:アミノグリコシド、クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、ヨードなど
②中枢性
●脳炎:GME、NE など→発作や視覚障害など、前庭症状以外の症状を併発
●腫瘍
●感染症:CDV、FIPなど
●血管病変(小脳梗塞など)
●甲状腺機能低下症、低血糖、チアミン欠乏症
●薬剤:メトロニダゾール、イベルメクチン、鉛、ヘキサクロロフェンなど
●外傷、出血
症状をよく観察し検査結果と組み合わせて、前庭疾患であるかどうか判断し、また障害領域(右or左、末梢性or中枢性)を大まかに予測します。
その後に原因疾患を特定したり、可能性のある疾患を除外してゆきます。
同じ側での外耳炎、斜頚、顔面神経麻痺、ホーナー症候群などの症状が見られたら、末梢性前庭疾患が強く疑われます。
犬や猫では、末梢性前庭疾患が多く、特に外耳炎から進行した中耳炎や内耳炎が原因で起きるケースが多いです。
なので、外耳炎になってしまった場合は、決して放置せずに、早期に治療を開始してください。
治療)
それぞれの原因に対する治療が行われます。
同時に、鎮静剤、制吐剤、消炎剤、栄養補給、輸液(点滴)などの対症療法や支持療法が行われます。
ふらつく場合は、頭をぶつけたりして怪我をしないようなサポートが必要になります。
予後)
発生部位やその原因によって、治療や予後はさまざまです。
眼振や旋回、食欲不振などの症状がなくなっても、斜頚や顔面神経麻痺が残ってしまう子もいます。
いろいろ検査をしても原因が見当たらない、(老年性)特発性前庭疾患の場合は、無治療でも数日以内に改善が見られ、多くは予後良好です。
けれど、当然ですが老齢の子がすべて特発性のわけではありません。
いずれにしても、早期の治療開始が推奨されます。
以上、今年1年も私の長いお話にお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
動物たちの健康管理のご参考にしていただけましたら幸いです。😊
皆様、良いお年をお迎えください。😉
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。