抗がん剤(分子標的薬を含む)は、悪性腫瘍の治療薬ですので、悪性腫瘍(癌や肉腫)と診断されて、初めて使用されます。
抗がん剤による治療は、ただ延命にこだわるのではなく、生活の質(QOL)が維持されたご家族との時間を、できるだけ多く得るための治療とご理解ください。
残念ながら、根治というよりは緩和治療となります。
何ヶ月間かの時間が得られる場合がほとんどですので、その時間に価値を感じる方々に対して、お勧めする治療です。
抗がん剤には、経口薬と注射薬があります。⚠️人体薬ですので効能外使用となります
抗がん剤の軟膏は、動物が舐めてしまうと危険ですので使用しません。
経口薬は、お家で飼い主様から投与していただくことが多いので、取扱上の注意点をよく守っていただく必要があります。
経口薬だからといって、安全で副作用が少ないということは決してありません。抗がん剤ですから、副作用は必ずあります。
その副作用が飼い主様の許容範囲であるかどうかということが問題となります。
私たちの病院では、妊娠の可能性のある女性や小さなお子様のいらっしゃるご家庭には、経口の抗がん剤の処方は致しておりません。
注射薬の場合も、女性やお子様には、治療中の動物、特に治療後2日間の排泄物に触れないようにお願いをしています。
今回は、私たちの病院で行っている抗がん剤治療(化学療法)の、当日の実際の治療内容について、注射薬の投与はこんな風にしていますというお話です。🙂
🔹主な薬剤の投与法🔹
経口投与:シクロフォスファミド、メルファラン、メシル酸イマチニブ、リン酸トセラニブ
皮下投与:L-アスパラギナーゼ
静脈投与:アドリアマイシン、ビンクリスチン、カルボプラチン
🔸各薬剤に共通🔸
①当日、食事を与えずに排泄を済ませ、予約時間にご来院後、体重測定、身体一般検査をし、血液検査でチェック項目を確認後、同意書を頂いてお預かり。
必要に応じて、あらかじめ皮下輸液を行うこともあります。(特に猫)
その他、抗がん剤によって制吐剤や抗菌剤の投与を行う場合もあります。
1)L-アスパラギナーゼ
②アレルギー反応対策として、投与30分前に抗ヒスタミン剤またはステロイド剤を皮下投与。
③体重あたりの投与量の薬剤を、生理食塩水で3~5倍に希釈した溶液を皮下投与。
2)アドリアマイシン(ドキソルビシン)
②アレルギー反応対策として、投与30分前に抗ヒスタミン剤またはステロイド剤を皮下投与。
③毛刈り後、静脈カテーテルを橈側皮静脈に留置する。(吸入麻酔下で行う)
④20㎖の生理食塩水を投与して、カテーテルが静脈にしっかりと入っていることを確認する。
⑤輸液ポンプ(定量輸液セット)に、体重あたりの投与量の薬剤を生理食塩水で希釈した溶液をセットして、30~60分かけて静脈投与を行う。
この間、必ず1人のスタッフは動物が静脈カテーテルを外してしまわないように、傍に付き添って監視を行います。
⑥投与終了後、生理食塩水20㎖で静脈をフラッシュし、薬剤が残らないようにしてから留置を外し、テープで留置場所を保護する。
副作用として、3~4日後に下痢や血便になることがありますので、お返しの時に、あらかじめ治療用のお薬をお渡しします。
3)ビンクリスチン
②体重あたりの投与量の薬剤を、生理食塩水で希釈した溶液を注射器に用意する。
③毛刈り後、静脈カテーテルを橈側皮静脈に留置する。(吸入麻酔下で行う)
④20㎖の生理食塩水を投与して、カテーテルが静脈にしっかり入っていることを確認する。
⑤薬剤をゆっくりと投与後、生理食塩水20㎖で静脈をフラッシュし、薬剤が残らないようにしてから留置カテーテルを外し、テープで留置場所を保護する。
4)カルボプラチン
②アレルギー反応対策として、投与30分前に抗ヒスタミン剤またはステロイド剤を皮下投与。
③毛刈り後、静脈カテーテルを橈側皮静脈に留置する。(吸入麻酔下で行う)
④5%ブドウ糖液を投与して、カテーテルが静脈にしっかり入っていることを確認する。
⑤輸液ポンプ(定量輸液セット)に、体重あたりの投与量の薬剤を5%ブドウ糖液で希釈した溶液をセットして、30~60分かけて静脈投与を行う。
⑥投与終了後、5%ブドウ糖液20㎖で静脈をフラッシュし、薬剤が残らないようにしてから留置を外し、テープで留置場所を保護する。
処置が終了後、飼い主様に連絡をしてお迎えに来ていただきます。
基本的に日帰りですが、夕方までお預かりをする場合や、必要な場合は1日入院をすることもあります。
お帰りの時に、抗菌剤、止瀉薬 、制吐剤、栄養補助剤などを副作用対策として、あらかじめお渡しすることがあります。
抗がん剤の投与は、私たちスタッフは、毎回とても緊張をします。
特にアドリアマイシンは、絶対に、血管から薬剤を漏らしてはいけないので、プレッシャーが大きいです。
抗がん剤という危険物を扱いますので、ガウンやマスク、手袋、ゴーグルなどの防護具が必要となります。
薬剤の調合や調整を行う際に、吸引や飛散という院内暴露の危険を伴いますので、とても神経を使いますし、正直、あまりしたくない仕事ではあります。
けれど有効な時には、腫瘍に対する効果は大きいので、避けて通れません。
抗がん剤治療を希望される飼い主様は、1日でも長く元気に、少しでも長く一緒にいたいと願っていらっしゃる方々です。
なので、抗がん剤の副作用はできるだけ抑えてあげたいので、投与の前に先手を打って対策を講じるようにしています。
抗がん剤は、効果や副作用について、飼い主様からあらかじめ正しく理解していただくことが重要です。
抗がん剤の治療を始めるにあたっては、飼い主様ご家族との話し合いが欠かせません。
皆様一様に、まず副作用のことを心配されます。次に費用のこと。
それらの不安に対して、正確な情報や大まかな見積もり金額をお伝えしながら説明をいたします。
そのために、必要な検査は欠かせません。FNAまたは病理検査、血液検査、X線検査、エコー検査などです。
飼い主様のご理解と同意が得られたら、大まかな治療の予定表をお渡しし、実際に治療を開始します。
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※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。