糖尿病で救急管理が必要となるのは、糖尿病性ケトアシドーシスと高浸透圧高血糖症候群の時です。
急激に発症し、極度の脱水、嘔吐、腹痛、呼吸速迫、沈鬱、起立不能、意識障害などが認められます。
無治療では死亡を免れず、治療後の死亡率は犬猫ともにほぼ30%。
糖尿病以外の基礎疾患や併発症の重症度が治療の成否に関わり、来院された日の夜が山です。
糖尿病性ケトアシドーシスは、①糖尿病、②尿中ケトン体陽性、③代謝性アシドーシス
高浸透圧高血糖症候群は、①糖尿病、②尿中ケトン体陰性~弱陽性、③高浸透圧で脱水が顕著 という特徴がありますが、病態が混在することもあります。
ただし、尿ケトン体が陽性でも、状態が安定している子はおそらく糖尿病性ケトアシドーシスではなく、診断には代謝性アシドーシスの確認が必要です。(放置すればその後に発症する可能性はあります)
単純な糖尿病からなることは少なく、また糖尿病では感染症を併発することが多いので、特に猫では、口内炎や歯肉炎、膵炎、胆管炎、腸炎、膀胱炎などの持病のある子が多いです。
無治療や飼い主さまの治療の中断などによって血糖コントロールができていない1型糖尿病や、無治療や感染症などの様々な併発症のある2型糖尿病で発症するようです。
かなり悪い状態での来院がほとんどなので、診断自体は難しくありません。
けれど治療はとても大変です。
血糖値や電解質の変化をあらかじめ予測して、点滴液の濃度や流速を調整しなければならず、難しいのです。
安定するまで継続的なモニタリングが必要で、根気強く粘り強く、とにかく手間隙がかかり、神経を使います。
糖尿病性ケトアシドーシスも、高浸透圧高血糖症候群も、治療は一緒です。
①脱水の改善
②電解質異常(P、K、Ca、Na、Cl)の改善
③血糖値の改善
④糖分(栄養)補給
⑤併発疾患の治療
治療で最優先されるべきは、血糖値を正常に下げることではありません。
静脈点滴による、脱水と電解質異常の改善が第一。
逆にそれをせずに、いきなり血糖値を下げようとインスリンを投与すれば、死なせてしまう結果になるでしょう。
それはリフィーディング(再給餌)症候群と同じです。
インスリンの投与によって体内のエネルギー代謝が、脂質代謝から糖代謝に変わるからです。
インスリンの作用によって、ブドウ糖が血液中から細胞内に取り込まれるときに、同時にカリウムとリンも取り込まれます。
なので、低カリウム血症、低リン血症の状態でインスリンを投与すると、さらに状態が悪化して取り返しのつかないことになるのです。
ちなみに、低カリウム血症が重度になると筋肉や心臓の機能低下を、低リン血症が重度の時は溶血性貧血を引き起こします。
また急激な血糖値の低下は命の危険を伴うために、1~2日かけてゆっくりと下げていかなければなりません。
そのため血液検査の結果をもとに、上の画像のように、輸液ポンプという機械を2台使用して、点滴速度を調節しながら血糖値と各電解質の濃度調整を行います。
もちろん同時進行で脱水の補正も行います。
そのため、血液検査は容態が安定するまでは2~3時間おきに行わなければなりません。これは基本的に昼も夜もです。
最近は、フリースタイルリブレのおかげで、血糖値の把握は楽になりました。電解質の検査のために採血をしなければならないのは一緒ですが。
インスリンは生理食塩水で薄めた溶液を、静脈カテーテルから輸液ポンプで持続的に投与し続けます。
これだと血糖値が下がりすぎることなく、ゆっくりと下げることができるので安全です。
筋肉注射で行うこともできますが、特に脱水している場合は吸収が一定でなかったり、逆に血糖値が下がりすぎてしまう危険性があります。
ただし輸液ポンプを使用しているときも、動物がある程度元気になって動けるようになると、同じ方向にクルクル回ることで点滴のチューブを捻り曲げて点滴を止めてしまうことがあります。特に夜間に多いです。
そうなるとインスリンの投与が止まってしまうので、なので、臨機応変に使い分ける必要があります。
状態がある程度安定してきたら、今度は給餌を始めます。(嘔吐があるときには制吐剤を投与します)
食欲がない子には、強制給餌(経口、経鼻カテーテルなど)を行って、インスリンの投与を続けます。
自発的に食事が取れるようになったら退院です。
併発疾患がある場合は、治療中からそちらの治療を平行して行います。
糖尿病の救急治療は、とにかく大変です。場合によっては、夜間や休診日でも休めません。😩
検査回数が多く治療に手がかかりますので、殆どの場合、治療費は高額になります。
退院した後もインスリンの投与が続きますので、飼い主さまには身体的、精神的、金銭的な負担がかかります。
もちろん、『この子が元気でいられるなら』と、笑顔で頑張っている飼い主さまもいらっしゃいます。
そんな飼い主さまは、全力でサポートしたいって思います。😃
インスリン投与は基本的に一生涯続き、強制給餌や皮下点滴などの看護が必要になるときもありますので、生半可な気持ちでは続かないでしょう。
救急の状態にならなくても、インスリンを投与してもらえない糖尿病の子は、たとえ食事を食べていても、ガリガリに痩せて最終的に死んでしまうでしょう。
私たちは、昼夜問わず頑張って助けた命を、色々な都合で、みすみす死なせたくはありません。死んでほしくありません。🥺
それでは苦労が水の泡です。報われません。ガックリきます。人間ですから。🥲
「助からなければよかったのに、余計なことをして」
そんな心無い言葉を言う人もいます。いろいろな人がいます。
ご家族全員の、価値観や意見が一致していることがベストなのですけれどね。
ご家族の人数分、実際には難しいことではあります。
なので、確固とした覚悟を確認させていただく意味でも、飼い主さま方との話し合いはとても重要だと思っています。(緊急時にはあまり時間がないのですが)
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。
🌸あわせてお読みください:犬の糖尿病/院長ブログ