ソモギー効果は、糖尿病の治療上とても厄介な問題です。
甲状腺機能検査時に遭遇することのあるユウサイロイドシック症候群(euthyroid sick syndrome)と同様に、病態の解釈を複雑にしてくれます。😩
ソモギー効果とは、下がりすぎた血糖値を押し上げようとする体の正常な危機回避システムです。
血糖値が下がりすぎてしまった時、反射的に体内で血糖値を上昇させる働きをするホルモンが分泌され、さらに肝臓からはグルコースが血中に放出された結果、高血糖状態になる生理的なリバウンド現象です。
高血糖の検査結果が出たときに、インスリンの投与量が足りなくて高血糖になっているのか、それとも逆に、多すぎて低血糖になりソモギー効果のせいで結果的に高血糖になっているのか、判断に迷う時があるのです。😣
さらに、併発疾患のある子ならば尚更です。😫
高血糖という検査結果に対して、インスリンの投与量を増やすことでさらに血糖値が上がってしまうという悪循環が生じますので、注意が必要なのです。
低血糖の状態は、生命の維持が脅かされる危機的な状況ですから、体は総動員で阻止するように働きます。
そのため、血糖値を下げる働きをするホルモンはインスリンだけですが、血糖値を上昇させる働きをするホルモンは多いです。
①グルカゴン、②カテコールアミン(ノルエピネフリン、エピネフリン)、③副腎皮質ホルモン(コルチゾール)、④成長ホルモン、⑤甲状腺ホルモンなど。
糖尿病の治療において、インスリンの投与量は、血液検査(血糖)や尿検査(尿糖)の結果によって、本来は毎回、増減調整が行われることが理想です。
検査の結果が目標値よりも高い値であれば、投与量が足りていないということで、インスリンの投与量を増やさなければなりません。
けれどソモギー効果が働いている場合、本来は低血糖状態でインスリンの投与量を減らさなければならないのに、血液検査のタイミングによっては高血糖となり、その結果、インスリンの投与量を増やすことになってしまうかもしれません。
これは致命的な低血糖を起こす原因となりますので、とても恐ろしい事態です!
このように、ソモギー効果は生命維持のための健全な反応ではあるのですが、そのために糖尿病の血糖コントロールがややこしくされてしまうのです。😣
なので、ソモギー効果を理解し、ソモギー効果を起こさせない、ソモギー効果に早く気づくための対策が必要なのです。
1)ソモギー効果が疑われる場合
①インスリンを増量しても血糖値が下がらない
②血糖値の変動が激しい(安定しない)
③元気、食欲、飲水量、体重などの症状が改善しない
ソモギー効果が現れているときは、低血糖の状態では具合が悪く、低い→高血糖の期間(1時間位)は元気に、高血糖の状態でも割と元気でいます。😥
低血糖の症状は、ふらつき、虚弱、虚脱、運動失調、痙攣、意識消失などで、さらにソモギー効果の発現によって、震え、興奮や攻撃行動などが見られます。
けれど高血糖の糖尿病性ケトアシドーシスでも、食欲不振、衰弱、脱水、嘔吐、下痢、意識消失などが認められ、飼い主様が症状から判断することは難しいです。
2)検査・対策
①入院での血糖曲線の作成
病院に半日~数日入院していただいて、インスリン投与後2~3時間おきに血糖値を測定し、グラフ化します。
ソモギー効果の有無を検出するだけでなく、現在のインスリン投与量や種類が適切であるかどうかの判定にも役立ちます。
低血糖を起こさなくても、血糖値が急激に低下することでソモギー効果が誘発されることがあると言われていますので、作用時間が短かすぎるインスリンは種類の変更が必要です。
ただしシャイな性格で、病院にいるだけでストレスになり、さらに高血糖となるような子には向きません。😣
②家での尿糖とケトン体の測定
お家で飼い主様から、排尿時に尿試験紙を当てて検査を行っていただきます。
1日のうちで尿糖が(-)~(3+)まで激しく変動する場合は要注意です。
慣れるまでは、排尿のタイミングに合わせて検査をすることが難しいかもしれません。
③糖化アルブミンやフルクトサミンの測定
尿糖が(-)の時があるにもかかわらず、糖化アルブミンやフルクトサミンが高い値を示す場合は、ソモギー効果が疑われます。
④FreeStyleリブレ
1回の装着で最長2週間、血糖値の変化が自動的に記録され、採血なしで知りたいときに血糖値を知ることができる、人間用の医療機器です。
動物の体に500円硬貨くらいの大きさのセンサーを装着し、ご自宅で飼い主様が専用のリーダーやスマホをかざして血糖値を読み取ることができます。
正確には、血糖値(血液中の糖濃度)ではなく、細胞間質液中の糖濃度で、血糖値とは僅かな時間的な誤差がありますが、問題にならない程度です。
糖尿病と診断された初めの頃や、血糖コントロールがうまくいかないとき、高血糖で入院中のモニタリングなどに有効です。
現在のインスリンの投与量での変化に基づいて、インスリン製剤や投与量の変更を行って効果を試すことができます。
3)対処
インスリンの投与量がある値以上となった時には、一旦減量を試みます。
インスリンの減量によって症状の改善が見られず悪化が認められた時には、併発疾患の有無を調べます。
状態が改善された時には、ソモギー効果の可能性が高いのでインスリン量をさらに減量してゆきます。
4)併発疾患
糖尿病の治療中、インスリンの投与量を増やしてもなかなか血糖値が下がらず逆に高血糖になる場合、ソモギー効果の他にインスリン抵抗性を示す併発疾患が関与している可能性があります。
①肥満・高脂血症、②発情、③慢性炎症(膵炎、腸炎、歯周炎、感染症)、④慢性疾患(腎臓、肝臓、その他)などです。
そして、併発疾患が確認された時には、治療や食事療法は併発疾患が優先されます。
以上、動物たちの健康管理の参考にしていただけましたら幸いです。😊
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。
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