乳腺腫瘍は、乳腺組織の一部が腫瘍化して『しこり』のできる病気です。
乳首の周りにできやすいので、毎日の触れ合いの中で、飼い主さまが早期に発見できる病気の1つです。
避妊手術を受けていないか、あるいは手術時期が遅かった雌の動物で発生の多い腫瘍です。
ごくごくまれですが、オスでもできることがあるようです。(私は経験がありません)
よく聞かれることですが、しこりの全てが『腫瘍』や『乳がん』、『乳癌』というわけではありません。
また乳腺の場所にできるというだけで、肥満細胞腫などの皮膚腫瘍や、骨腫瘍である場合もあります。
乳腺腫瘍は犬では良性と悪性の割合が半々で、『乳がん』や『乳癌』は悪性腫瘍のことです。
犬では乳腺腫瘍の良性腫瘍が全体の半数で、さらに残りの悪性腫瘍のうちの半数は、転移しにくくて外科手術だけで根治可能であると言われています。
(重症患者の多い大学病院でのデータですので、実際にはもっと良性の割合が多いはずです)
なので、全体の75%は外科手術で完治が見込めるということですが、もちろん早期の手術に越したことはありません。
1㎝以下の、腫瘍が小さいうちはそのほとんどが良性で、この時期に切除してしまうのが理想的です。
3㎝以上に大きくなってしまうと悪性の可能性が増し、自壊して出血したり化膿したりするようになります。
また、急激に大きくなったり数を増すような悪性の腫瘍では、時間が経過するほどリンパ節や肺や、他の内臓への遠隔転移が起こりやすくなります。
遠隔転移してしまうと、乳腺のしこりを手術で切除しても転移した組織で腫瘍細胞が増殖し続けて、最終的には肺が腫瘍によって占拠され、呼吸不全などのために亡くなることになるでしょう。
しこりを見つけたら、迷っている暇はありません。早めの診察をお勧めします。
乳腺腫瘍はたとえ良性の場合でも、無処置、あるいはサプリメントの作用によって、消失することはありません。
逆に、消えてなくなるなら、それは乳腺腫瘍ではなかったということでしょう。
ちなみに犬の乳腺は5対10個、猫は4対8個あります。
乳腺腫瘍は1個できると、他の乳腺にも同じようにできる可能性があり、再発率はとても高いです。
治療の第一選択は、外科的な切除手術です。(炎症性乳癌以外)
乳腺腫瘍の切除手術は、その切除の仕方から主に4つに分類されます。
①部分切除術
腫瘍を最小の傷でくり抜くように切除します。
主に良性の腫瘍が疑われる場合や、持病の呼吸器や循環器疾患などのために、短時間の手術が望まれる症例に対して行われます。
短い時間で小さな傷ですみますが、反面、乳腺は残りますので将来的に再発の可能性が高いです。
切除後、新たに乳腺腫瘍が発生する確率は、避妊手術をしていない場合は6割強、切除時に同時に避妊手術をおこなった場合は3割強と言われています。
②領域乳腺切除術
1)左右片側にある場合
乳腺を、左右の、前半(第1~3)と後半(第3~5)の4区画に分けて、腫瘍のできた場所によってその区画ごと(+リンパ節)まとめて切除する方法です。
切除したリンパ節の病理組織検査によって、リンパ節転移の有無を確認することができます。
2)左右両方にある場合
左右両方に複数の腫瘍がある時に、その全てを含むように領域リンパ節も含めて乳腺を切除する方法です。
③両側乳腺全切除術
再手術のリスクをなくすために、予め全ての乳腺組織とリンパ節ごと1回の手術で腫瘍を切除してしまう方法です。
④片側乳腺全切除術
左右同時に乳腺を全て切除することは、皮膚を縫合する時に、小さいワイシャツやブラウスのボタンを無理やり留めて着るように、ピチピチで息苦しく、ボタンが飛んでしまうように縫合部分が開く可能性があり、とても無理があります。
なので、実際には左右のどちらか大きな腫瘍がある方から、片側ずつ2回に分けて、両側の乳腺を全て切除する方法をとります。
2回目は1ヶ月以上、皮膚が伸びて余裕ができるまで時間を置いて行います。
この写真は2年前に右側の乳腺全切除を行ったあと、2回目の左側の全切除手術前のワンちゃんです。(1回目の縫合跡上の赤い部分はバリカン負けです💦)
脇の下から股まで、傷が大きく縫合に時間がかかりますが、きちんと血管結紮を行えば出血はほとんどありません。むしろ部分切除の方が出血は多いです。
(写真のように血管が分布しているからです)
乳腺腫瘍の手術時には、同時に避妊手術(卵巣子宮摘出手術)を行うことが多いです。
この避妊手術は以下の目的で行われますが、その分、手術時間は長くなりますので、必ず行われるものではありません。
1)将来的な卵巣や子宮の病気を予防する
2)新たな乳腺腫瘍が発生する確率を低下させる
猫ちゃんの場合は若い時に避妊手術済みの子が多いので、ワンちゃんほど乳腺腫瘍の発生数は多くありません。
けれど、少ない中でも悪性の乳腺腫瘍の割合が高くて、およそ8割と言われています。ほぼ悪性ということです。
なので、より早期の治療開始が望まれます。
乳腺腫瘍は、高齢の動物がなる病気ですから、すでに他の持病を持っている場合が多いです。
その子の健康状態や腫瘍の進行度、治療の目的とそのメリットやデメリットを理解していただいた上で、長い目で見た時に後悔の残らないように、ご家族とその子にとって最善と思われる治療法を選択してあげてください。
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※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。