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猫の膵炎の診断と治療

 

膵臓は、胃から続く十二指腸の外側の部分に沿って存在する臓器です。

 

消化酵素を含む膵液を十二指腸に分泌する消化器としての働き(外分泌機能)と、インスリンなどのホルモンを血液中に分泌する働き(内分泌機能)を併せ持っています。

 

本来、正常な状態では膵液中の消化酵素は膵臓内では作用せず、小腸(十二指腸)へ移動してから働く様になっています。

 

ハリネズミの赤ちゃんが、妊娠中のお母さんの子宮を傷つけずに発育して出産を迎えるのと同じイメージでしょうか?

 

自分で自分の体を溶かしてしまったら、大ごとですからね。

 

そんな『一大事』が起きてしまうのが、急性膵炎です。

 

膵炎は膵臓(膵外分泌部)に炎症が起きる病気のことで、急性と慢性に分けられます。

 

慢性膵炎は急性膵炎から波及するとされています。

 

急性膵炎では膵液が膵臓の外側に漏れ出すことで、膵臓だけでなく周りの脂肪や組織まで溶かされてしまいます。

 

早急に治療を開始しなければならず、重症化した場合はDICによる多臓器不全で死亡するリスクの高い病気です。

 

ワンちゃんの場合は急性症状が多いこともあり、比較的わかりやすいです。

 

今回は、診断が難しい猫ちゃんのお話です。

 

 

猫の膵炎の原因は、

 

①交通事故などの物理的な膵臓の損傷

②感染症(猫伝染性腹膜炎(FIP)、トキソプラズマなど)

③脂質代謝異常(肝リピドーシスや糖尿病など)

④食事内容の急変

⑤薬物中毒(有機リン剤など)

⑥他臓器疾患(胆管肝炎、肝リピドーシス、炎症性腸疾患、リンパ腫、胸・腹水貯留など) 

 

などが考えられますが、特定は難しいことがほとんどです。

 

 

犬と違い、猫の膵炎の発症における脂肪組織(肥満)や高脂肪食の役割はよくわかっていません。

 

けれど、肥満は糖尿病などの脂質代謝異常のリスクを高めますので、適正な体重維持は重要です。(猫は理想体重+その20%以内、犬は15%以内

 

ある報告では、死後に解剖された猫の65%で、死因に関わりなく組織学的に膵炎が認められ、臨床上異常の認められなかった猫でも45%で膵炎の所見が認められたということです。

 

また急性膵炎(15.7%)よりも慢性膵炎(60.7%)の方が多かったそうです。

 

慢性膵炎の猫は、典型的には無気力、食欲低下、脱水、体重減少など、なんとなくはっきりしない症状を示します。

 

これといった症状もなく、食欲不振くらいの子がほとんどなので診断が難しいです。

 

犬では嘔吐腹痛が膵炎の特徴ですが、猫ではあまり見られません。

 

 

ただし猫でも、黄疸発熱、血液検査で肝酵素の上昇高ビリルビン血症高血糖、高窒素血症低コバラミン血症、電解質異常低カルシウム血症)白血球減少症など、併発疾患の症状が見られることもあります。

 

糖尿病胆管肝炎炎症性腸疾患(IBD)肝リピドーシスなどの病気から、膵炎の存在を疑うことが多いかもしれません。(猫の3臓器炎

 

 

診断のためには、問診、身体検査、血液検査、レントゲン検査、超音波検査、尿検査などが行われます。(すべてではありません)

 

猫の血液検査では、一般的な血球計算、血液生化学検査の他に、SAA(猫の炎症マーカー)やfPLI(猫膵特異的リパーゼ)の検査が行われます。

 

SAAは犬のCRPと同様に、猫の全身の炎症反応の有無を知るための検査です。

 

犬の場合は、膵炎の50~60%で、血液検査でアミラーゼリパーゼの上昇が認められるとされていますが、猫では当てになりません。

 

現在、主に犬と猫の膵炎の診断に用いられているのは、膵特異的リパーゼ(PLI)の検査です。

 

メーカー発表では、中~重度の膵炎のある猫ではfPLI検査の感度(膵炎を検出する能力)は100%だそうです。

 

ただし軽度の膵炎の猫では感度は54%に低下するそうです。

 

犬のアミラーゼ、リパーゼと同程度ということですね。

 

またfPLI検査の特異性(膵炎を除外する能力)は健康な猫では100%、症状はあるけれど組織に異常のない猫は67%でした。

 

 

膵炎の治療は、入院して輸液(水分と電解質の補給)を行いながら、鎮痛剤や吐き気止めのお薬の投与を行います。(対症療法)

 

そのほかに、タンパク分解酵素阻害薬や抗菌剤、抗炎症剤の投与や、併発疾患があればその治療も並行して行われます。

 

また可能であれば、DICの予防として血漿輸血を行うこともあります。

 

 

猫の場合、特に大切なのが栄養補給です。

 

以前は、膵炎の治療では嘔吐が治るまでは絶食が推奨されていました。

 

けれど、食べ物を摂取できなければ全身状態がさらに悪化しますし、猫では肝リピドーシスという病気を予防するためにも、自力で食べられない子には早い段階から躊躇せずに経鼻カテーテルや、食道チューブでの栄養補給を心がけます。

 

 

猫の慢性膵炎は慢性活動性膵炎なので、徐々に進行し膵外分泌不全糖尿病などの併発疾患を引き起こすことがあります。

 

なので回復後も油断はできず、定期検診などで経過観察が必要です。

 

 

 

 ※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。