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がんの分子標的療法

 

私たちの病院では、がん(悪性腫瘍)の動物たちに対して、外科手術、抗がん剤による化学療法と、分子標的薬での治療を行なっています。

 

(放射線治療は、ご希望により県内外の他施設を紹介致します)

 

分子標的薬による治療は、ヒトの医療では、外科手術、抗がん剤治療、放射線療法に続く、第4のがんの治療法として確立されています。

 

人間はお薬の種類も多いです。

 

抗がん剤は腫瘍に対して有効な治療薬ですが、反面、がん細胞だけでなく活発に増殖している身体中の正常な細胞骨髄、腸管粘膜上皮細胞、毛母細胞)にも作用するという欠点があります。

 

なので、白血球減少症や血小板減少症、消化管障害、脱毛などの副作用が問題となることがあります。(個人的には動物種差個体差が大きいと感じます)

 

それに対して分子標的薬は、がん細胞の発現・増殖に必要な特定の分子に対して作用するとされています。

 

その分、分子標的薬は抗がん剤よりも副作用が少ないとされていますが。。

 

全くゼロというわけではありませんし、種類によっては抗がん剤の方が副作用が軽度な場合もあります。

 

分子標的薬は、ある種のがん細胞の増殖、血管新生、転移を防ぐ働きをするとされています。

 

短い期間ではありますが、腫瘍細胞の縮小が観察されるケースもあります。

 

 

トセラニブは、元々は犬の肥満細胞腫の治療薬として認可されたお薬ですが、他の腫瘍に対する効果がいろいろな報告によってわかってきています。猫にも投薬可能です。(ただし⚠️効能外使用⚠️

 

錠剤のお薬ですので、お家で飼い主様から飲ませていただきます

 

 

<効果が報告されている腫瘍>

⚠️効能外使用を含み、すべての症例で効果が保証される訳ではありません⚠️

 ▪️肥満細胞腫

 ▪️消化管間質腫瘍(GIST)

 ▪️肛門嚢腺癌

 ▪️甲状腺癌

 ▪️口腔内扁平上皮癌

 ▪️鼻腔内腺癌

 ▪️乳腺癌

 ▪️頭頸部癌

 ▪️心臓基底部腫瘍(大動脈小体癌)

 ▪️腺癌の肺転移  など

 

<副作用>

 ▪️消化器症状(下痢、食欲不振、嘔吐、血便)

 ▪️破行、筋骨格疼痛

 ▪️骨髄抑制(好中球減少、血小板減少、貧血)

 ▪️皮膚障害(膿皮症、色素脱失)

 ▪️ALT↑、BUN↑、アルブミン↓

 ▪️高血圧

 ▪️甲状腺機能低下症   など

 

<問題点>

▪️中長期的な投薬で、多くの場合、耐性副作用が認められるようになります

 

<注意点>

▪️錠剤を決してすりつぶさないでください

▪️排泄物(糞便、尿、吐瀉物)の処理時には、必ず手袋を使用してください

▪️妊娠または授乳中のご家族様は、特に取り扱いにご注意ください

 

副作用が認められた時には、直ちに休薬し、回復してから減量しての投薬再開が推奨されます。

 

 

トセラニブはその作用が多様で、効果のメカニズムがまだはっきりと解明されたわけではありません。

 

たとえ有効だったとしても、効果は抗がん剤に比べれば弱いと言えますし、上記以外の悪性腫瘍(軟部組織肉腫など)に対しては、むしろお勧めいたしません

 

治療効果よりも副作用(リスク)の方が大きいと予想されるからです。

 

そういう子たちには、他の治療法をお勧めいたします。

 

 

それでも、今までは諦めなければいけなかった子たちに対して、たとえ一定期間であっても有効性が示されたことは朗報と言えるでしょう。

 

私たちの病院では、その子の状況に合わせて複数の治療法を提案いたします。

効能外使用を含みますので、必ず同意が得られてから行います

 

 

がん(悪性腫瘍)の治療法・治療効果は、すべてで同じではありません。

 

その腫瘍にあった治療法でなければ、治療効果は見込めないでしょう。

 

ご家族の皆様にはその子に合った治療法を、よく考えて選択していただきたいと思います。

 

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。

 

 

 

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