人間と同じように、動物の医療でも輸血が必要になることがあります。
命の危険を伴う重度の貧血(血液中の赤血球とヘモグロビンの不足や止血異常)の時です。
※ただし輸血はあくまでも回復までの時間稼ぎの治療ですので、骨髄から血液が作られない非再生性の貧血や、自己免疫疾患の場合は、輸血はお勧めできません
●貧血の原因
①急性・慢性の出血:外傷、腫瘍、止血異常
②感染症:パルボウイルス、ネコ白血病ウイルス、ヘモプラズマ、バベシアなど
③免疫介在性溶血性貧血
④薬物・化学物質中毒 or欠乏症:エストロゲン、エリスロポエチン、抗がん剤、タマネギ、鉛、リン、鉄など
⑤悪性腫瘍:白血病、リンパ腫、精巣腫瘍、血管肉腫など
⑥止血異常症:血友病、フォンウィルブランド病、DICなど
⑦その他、慢性下痢・嘔吐、長期の栄養失調、内分泌疾患など
●貧血の要因
1)大量失血(出血or溶血)
2)必要な血液を作り出せていない(骨髄の異常)
3)過剰に赤血球が壊されている(脾臓や肝臓の異常、免疫の異常、悪性腫瘍)
●貧血の分類
1)再生性貧血:骨髄から新たな赤血球が供給されている
2)非再生性貧血:骨髄から新たな赤血球が供給されていない(低下している)
輸血が効果的なのは、再生性貧血の時です。
輸血は貧血の症状を改善する最善の治療法ですが、輸血された赤血球には寿命があります。
正常な赤血球は、骨髄で作られて全身を周り、およそ4ヶ月後に脾臓や肝臓で壊されますが、輸血された赤血球の寿命はもっと短いです。
なので、新たに骨髄から赤血球が供給されなければ、あるいは過剰な破壊が止まらなければ、輸血を繰り返さない限り、その子は生き続けることができないでしょう。
例えば、女性ホルモン(エストロゲン)の過剰分泌が起きている精巣腫瘍(セルトリ細胞腫)では、稀に、腫瘍の切除手術後も非再生性貧血が持続することがあります。
🌟詳しくは、よくある腫瘍>精巣腫瘍を参照ください
●輸血血液の供給
①動物病院の動物
②同居動物、あるいはお友達の動物を連れて来ていただく
③輸血可能な他の動物病院をご紹介
動物の医療現場では、人間のような血液バンクや安定した血液供給システムがありません。
なので、動物から採血した血液を輸血が必要な動物の体に、静脈カテーテルを通して直接に入れてあげるのです。
ドナーの動物は、必要な検査(血液型、血液血球・生化学、クロスマッチ、ウイルス、ミクロフィラリアなど)後、ガス麻酔や鎮静処置のもと、採血されます。
健康であれば、犬は1㎏あたり20㎖、猫は16㎖まで、一度に採血しても安全であるとされています。(5㎏の犬で100㎖、猫は80㎖まで大丈夫)
状況にもよりますが、実際にはそれほど多く採血することはまずありません。
採血時に採血量以上の皮下輸液を同時に行うのですが、それでも採血後は一時的に、軽度の血圧低下や貧血状態になるようです。
ご経験のある方は、400㎖の献血をした時のことを思い出してみてください。あんな感じです。
●血液型
今わかっている猫の血液型はA型、B型、AB型だけで、猫にO型はありません。
ほとんどはA型で、B型は少数、AB型は非常に稀です。
犬の場合、国際的に認められているのは13種類です。
輸血で重要になるのはDEA1.1型で、供血犬はDEA1.1(−)が望ましいです。
犬の場合は、血液型が一致しなくても初回の輸血はあまり問題はないと言われていますが、猫は初回でも不適合輸血反応が強く出ます。
最近はあまり行われなくなりましたが、交配に際し不適切な血液型同士の組み合わせを避け、新生児溶血を防ぐことができます。
新生児溶血とは、母親の初乳を飲んだ後に体内で溶血反応が起こり、新生児が死んでしまう病気です。
初乳を介して、母親の血液(血清)中の抗体と、新生仔の赤血球表面の抗原が反応して溶血(赤血球が壊される)が起きるのです。
B型のメス猫と、A型のオス猫との交配は避けるべきです。
DEA1.1型(−)のメス犬と、DEA1.1型(+)のオス犬との交配も同様です。
なので、血液型をあらかじめ知っておくことは大切なのです。
そうそうあることではありませんが、生きていれば、輸血が必要になること(病気や事故)は、誰にでもあり得ます。
いざという時のために、元気な時に調べておくと安心ですね。
血液型は病院で調べられます。
輸血はいつでも、どこの動物病院でも、できるわけではありません。
珍しい血液型(B型の猫など)の場合は、特に難しいです。
病院にドナー動物がいても、タイミングによってできない時もあります。
一回の輸血後は、回復するまで1ヶ月間の待機期間を設けているからです。
現在私たちの病院では、犬はドナー動物を連れてきていただいた場合のみ、猫はドナー動物を連れてきていただくか院内ドナー猫からの輸血を行なっています。
血液をもらう動物が見つからない時は、他の輸血可能な動物病院をご紹介させていただくことになります。
実際には、特に大きなワンちゃんでは、ドナーを見つけることはとても難しいですし、必要な量を揃えられない時もあります。
なので特にワンちゃんたちは、お互いに『輸血が必要な時には助け合える』お友達がいたら、とても心強いですね。
もちろん、同じ血液型の子同士でお願いします。
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。