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ステロイド剤

先日、皮膚病の猫ちゃんが来院されました。

 

舐めていたせいもあって、全身に複数の大きなびらんや潰瘍ができていました。

 

皮膚病に気づいた当初から、長い期間、飼い主様はご自分が病院で処方されたお薬を塗っていたというお話でした。

 

抗生物質だとおしゃっていましたが、確認させていただいた所、ステロイド剤でした。

 

強度や投与量にもよりますが、ステロイド剤を長期に使用し続けると、皮膚が薄くなったり、細菌や真菌の感染症を起こしやすくなります。

 

抗生物質が含まれていれば良かったのですが。。これでは悪化するはずですね。

 

 

 

ステロイド剤は怖い」とおっしゃる飼い主様がいらっしゃいます。

 

けれど具体的な怖さを知っていらっしゃる方は少ないように感じます。

 

確かにお薬の知識のない方が闇雲に使用すれば、『危険』だと私も思います。

 

けれどステロイド剤の消炎、鎮痛、止痒作用は即効性で強力、おまけにお薬は安価です。

 

頭ごなしに否定するのではなく、ステロイド剤というお薬の性質を正しく理解してから、その上で、改めてお薬の選択をしていただきたいと思います。

 

 

ちなみに私は、ステロイド剤と同等の効果があって、ステロイド剤以外の治療薬の選択肢があれば、そちらをお勧めしています。

 

決してステロイド剤の信奉者ではありませんが、副作用だけが強調されていて少し気の毒に思います。

 

 

 

ステロイド剤は、体の左右の腎臓の前方にある副腎で作られる副腎皮質ホルモンの合成剤です。

 

このお薬には、身体中の炎症や免疫反応を抑える働きがあって、色々な病気の治療に使用されています。

 

 

アトピー性皮膚炎などの、特に痒みや炎症の激しい皮膚病、様々な自己免疫疾患、中枢神経の損傷、末梢神経疾患、アナフィラキシーショック、リンパ腫や肥満細胞腫、白血病、アジソン病のホルモン補充としての治療などです。

 

院長ブログ/長谷川動物病院
ステロイド剤/長谷川動物病院

  

作用の強度によって(最も強力)〜(弱い)まで5群に分類されています。

 

一番多く使用されている『プレドニゾロン』は、作用が一番弱い5群(Weak:弱い)に属すお薬です。

 

塗り薬の『ヒビクス』『ビクタス』『ウエルメイト』は4群(Medium:中程度)、『リンデロンVG』は3群(Strong:強力)、『モメタオティック』『コルタバンス』は2群(Very strong:かなり強力)です。

 

 

一番弱いプレドニゾロンでさえ、即効性でとてもよく効くお薬ですが、反面その子の体質によったり、長期の連用多量投与や突然の投薬中止など、不適切な投薬によって副作用を起こす可能性が高まります。

 

ステロイド剤の投薬を止める場合は、徐々に投与量を減らしながら行わなければならず、急に止めると副作用発現のリスクがあり危険なのです。

 

なので投与前の血液検査と、長期に投薬が必要なときには定期的な診察と血液検査をお勧めしています。

 

これらは、糖尿病医原性クッシング症候群感染症などの副作用を早期に発見するための検査です。

 

投与前の血液検査で血糖値が高めの子や、緑内障や他の持病がある子には(他に治療の選択肢があるときには)ステロイド剤以外のお薬をお勧めしています。

 

 

 

副作用はその他、骨粗鬆症、皮膚の菲薄化、消化管潰瘍、多飲・多尿・多食、筋肉量の減少と脂肪の増加、高脂血症、血中肝酵素値の上昇などが挙げられます。

 

 

これら副作用の症状は、全て必ず現れるものではなく、その子の病気やお薬の投与量、投与期間によります。

 

また現れても、お薬の減量または投薬中止、対症治療によって改善されます。

 

 

ステロイド剤以外の治療の選択肢があるときには、それぞれのメリット、デメリットを説明して、最終的な判断は飼い主様にしていただきます。

 

その子とご家族にとって、最も良いと思われる選択をしていただきたいと思います。

 

 

動物たちの健康管理のご参考にしていただけましたら幸いです。

 

 

※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。