ACTH刺激試験は、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)と副腎皮質機能低下症(アジソン病)の診断に用いられます。
副腎は、左右の腎臓のすぐ近くに1つずつ存在する内分泌組織です。
動物の副腎は人間のように腎臓に付着してはおらず、独立して存在します。
副腎は皮質と髄質の、2層構造をしていて、副腎皮質からはコルチゾールをはじめとした多くのステロイドホルモンが分泌されていて、それらのホルモンを総称して副腎皮質ホルモンと言います。
よく聞く、『ステロイド剤』とは、合成された副腎皮質ホルモンを主成分とするお薬のことです。
副腎皮質ホルモンは、その機能から3つに分類されます。
1)鉱質コルチコイド:アルドステロン:電解質バランスを調節する
2)糖質コルチコイド:コルチゾール:体内で糖の代謝を調節する
3)性ホルモン:エストロゲン、アンドロゲン:生殖機能に関与する
亢進症ではこれらの過剰反応が、低下症では機能障害による症状がみられます。
ちなみに、副腎髄質からはカテコールアミンと総称される、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンが分泌され、心臓を強く収縮させたり体の末端の細い血管を収縮させたりして血圧を上昇させたり、血糖値を上昇させるなど、体を興奮状態にする働きをしています。
副腎皮質ホルモンは、生命維持に必要不可欠なホルモンですが、副腎髄質ホルモンは、例え分泌が止まったとしても交感神経末端からノルアドレナリンが分泌されるため、死に至ることはありません。
今回は犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)のお話です。
自然に発生するクッシング症候群はその原因から、
1)下垂体性クッシング症候群(PDH): 80〜85%
2)ホルモンを分泌している副腎腫瘍(AT):15〜20%
に分けられ、治療法が異なるために、鑑別が必要なのです。
下垂体は甲状腺や、副腎に対してホルモン分泌量の増減を命令する器官です。
副腎を工場に例えると、脳下垂体は支社、その上の視床下部は本社となります。
本社の命令を無視して、支社長が勝手に製品を工場に大量発注し、製造させるのがPDH。
本社と支社の命令を無視して、工場長が勝手に製品を大量生産するのがATです。
クッシング症候群を疑う臨床症状や、血液検査で疑わしい結果が得られた時に、確定診断を行うための検査がACTH刺激試験です。
下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の合成剤を、多量にその動物に注射した時、注射の前後の血中コルチゾールの値の変化からクッシング症候群を確定診断します。
この検査の特異性(陰性を陰性と診断する確率)は90%以上ですが、感度(陽性を陽性と診断する確率)はPDHで80~85%、ATで50~60%と若干下がりますので、もし症状がみられているのにこの検査で確定できない場合には、ほかの検査の併用によって総合的な診断を行います。
その後に、レントゲンや超音波エコー検査で副腎を調べ、PDHとATの鑑別を行います。
ACTH濃度を血液検査で測定することもでき、クッシング症候群と確定診断ができればPDHとATの鑑別に役立ちます。
ただ、ホルモンの値は1日のうちの日内変動が大きいので、理想的には朝1番の測定が推奨されます。
当日は朝食をあげないでご来院いただき、採血とACTH注射後は食事をとっていただいても構いません。
1時間後にもう1度採血をして終了です。
クッシング症候群の特徴的な症状は、多飲多尿(90%以上)、皮膚症状(80%以上)、肝臓腫大、内臓脂肪の増加、筋肉萎縮により足腰が弱くなる、感染症を起こしやすい、内臓脂肪に圧迫されて呼吸が荒くなる、などです。
また場合によっては、脳や肺の血管梗塞や脳神経症状(頭部押し付けや食欲廃絶)などの合併症を起こすことがあります。
血液検査では、血球検査(CBC)のストレスパターン、ALT、ALP、総コレステロール、血糖値の上昇、Creの低下などが認められることが多いです。
治療は
1)お薬による治療:下垂体性のPDHと外科手術のできない副腎腫瘍AT
2)放射線療法:下垂体性のPDH
3)外科手術:副腎腫瘍ATと小さな下垂体性のPDH
4)放射線療法+外科手術:大きな下垂体性のPDH
ですが、放射線療法や外科手術を行える医療機関は限られますので、一般的にはお薬でコルチゾールの値を下げてあげる治療が行われています。
※時々お問い合わせをいただくのですが、診察を伴わない個々のご質問にはお答え致しかねます。申し訳ありません。